今週のメルマガに掲載したイー・アクセスの目論見書を読み直してみた。今年最後のビッグファイナンスになる案件であり、少しでもメルマガ読者の同社への理解度が深まれば幸いである。
インターネットが日本に上陸し、日本国民の多くがそのインフラを使うのに従量制の通信費に頭を悩ませていたのはつい数年前のことである。その頃、独占的な通信事業者に反旗を掲げ、複数の民間ADSLインターネット接続事業者が登場した。その先陣を切ってサービスを提供した東京めたりっく通信は、昨年春にソフトバンクに営業譲渡をし、その幕を閉じた。
事業の性格上、通信インフラビジネスは先行投資型のビジネスであり、キャッシュフローがポジティブになるのに数年を要するのは常識である。東京めたりっく通信も間接金融と直接金融(IPO)の道を模索したが、その両方ともかなわぬ夢となり、撤退を余儀なくされた。
我々国民の立場からすると、日常生活に必須となったインターネットインフラを、より快適に使える環境を提供する企業として先駆けとなるイー・アクセスは、規制緩和が進みつつある通信業界の風雲児であり、証券市場は投資家の資金を供給し、応援すべきと考える。その意味では、今回のエクイティファイナンスは、疲弊した日本の間接金融制度に対する直接金融制度の挑戦とも言える。
同社は創業当時から直接金融を使い、事業を立ち上げてきた。外資系ベンチャーキャピタルであるカーライルやゴールドマンサックス等の名だたる出資元から、社外取締役の派遣による経営監視を受けるなど、これまでの日本のベンチャーにはなかったコーポレートガバナンスの仕組みで経営を行うことを前提に、創業わずか3年の間に約200億円を第三者割当増資で調達した実績を持つ。
目論見書に、今回の調達資金104億円は設備投資および運転資金に充当するとあり、その中でも目を引くのは、運転資金の中には、債務返済が含まれていることである。新興ベンチャー企業が事業推進資金を調達するに際して、証券市場が間接金融に取って代わるだけの資金供給ができることを実証したシンボリックなケース第一号である。
また、この秋以降、金融行政の指導で、銀行は融資先企業の審査をDCF法で行なうと報道されている。イー・アクセスの営業キャッシュフローは3期続けてマイナス、この上半期もマイナスである。そのような中、同社はプロジェクトファイナンスのスキームで、この6月に65億円、10月に15億円の銀行借入れを実行し、その上に別途20億円の融資枠を設定している。
このような事実をもとに、「日本の間接金融(銀行借入)の世界では、100億円を超す資金調達はまったく不可能な企業であり、金融監督庁が融資銀行に100%の償却を求めるであろう収益状況である」と私は推測したが、目論見書をよく読むと、この上期は、売上総利益(事業そのもの粗利)は改善しており、黒字化が進んでいることは見逃せない事実である。また、実際には債務超過でも無く、これらの事実を東証も評価して上場承認に至ったことは、融資銀行団にとっても最大のサポート材料と思われる。
当事者の銀行は行政指導を受けたとしても、初志貫徹でイー・アクセスの融資残を維持して欲しいものである。また、企業再生と称し、国民経済に貢献しているのかどうか怪しい企業に対して債権放棄がまかり通るのであれば、豊かな国民生活の基盤を推進している同社への積極支援も銀行の役割であろう。
イー・アクセスの目論見書を研究されたい方は、以下、同社のIRサイトに掲載されているので、一読願いたい。
http://www.eaccess.net/ir/finfo.html
東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com
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