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Tokyo IPO
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「赤字会社の公募株価と投資判断」
東京IPO編集長 西堀敬
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今週、東証マザーズに、トランスジェニック、ノース、ピクセラが上場する。
3社に共通していることがある。それは、上場申請期までの数年間が経常赤字もしくは、小額の利益しか計上していないことである。

各社の公募価格と上場後の発行済株式数から時価総額を計算すると、トランスジェニック:102億円、ノース:80億円、ピクセラ:170億円となる。
一方、今週ジャスダック上場予定のテンポスバスターズ、竹内製作所は、申請前期の経常利益はそれぞれ2億円、8億円と黒字ではあるが、同様の方式で時価総額を計算すると、それぞれ35億円、47億円となる。この時価総額の差をどのように判断すべきだろうか。東証マザーズに上場する3社は、今後の成長性を株価に織り込んで、このような株価になっているとしか考えられない。

株価を測る尺度として、皆さんもよくご存知の「PER(株価収益率)」がある。前期利益ベースではあるが、テンボスは33倍、竹内は12倍となっている。(ジャスダック平均は予想利益ベースで16.18倍)。株価の評価を、特定の期間損益ベースで考えることに、相当無理があることは明らかであるが、参考にはなる。このPERの基本尺度が通じない企業が出てきた場合に、投資家はどのように企業のフェアバリューを測ればいいのだろうか?

上場企業の公募株価を算出する方式として、類似会社批准方式というものがある。この方法は、上場している企業群から同業種や同様の製品・サービスを提供している企業をピックアップし、各種の財務指標を比較しながら、株価を導き出す方式である。このような手法は、利益が出ていない企業だけでなく、ほとんどの銘柄で採用されている。さりとて、売上の絶対値が小さく、利益が赤字、もしくは小さい企業の株価をこの方式で算出したとしても、それなりの株価を導き出すには、苦労するはずである。そうすると、今週上場する3社の株価は、どのように算出されているのだろうか? 目論見書には記載されていない情報が、主幹事証券会社をはじめとする引受証券幹事団に上場企業から開示され、それらの情報を加味した上で、公募株価が算定されているとしか考えられない。

上場の審査を行う主幹事証券会社は、上場企業に対して今期、来期の事業計画の提出を求め、それを精査しているはずである。その業績予想を見れば、PERなどの尺度も通じるかもしれないが、一般の投資家には開示されていない。
目論見書には、過去の変えることのできない事実のみを掲載し、リスク情報では、読めば読むほど投資家の意欲を欠く内容が書かれているにもかかわらず、今週マザーズに上場する3社の株価は非常に高く評価されている。

IPO時のIR活動で、目論見書以上のことは発言しないように証券会社から指導されている経営者も多いだろうが、IPO後は方針を変えて、将来をもっと語るべきであろう。足元の業績と公募株価のギャップを解消すべく、今週、東証マザーズに上場する3社の経営者は、自らの中長期の事業計画を公表し、一般投資家が身近な投資尺度で測れるように、IR活動を充実させて欲しいものである。

投資家の皆さんは、市場の人気、つまり、需給によるプレミアムに惑わされること無く、企業自らの前向きな情報開示に注目し、プレミアムが剥げ落ちる前に、自らの評価を持つことが肝要である。

東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com