今週のIPO市場は、年初来好調が続いてきた公開価格に対する初値のパフォーマンスが完全に崩壊した。今年はすでに24社が新規上場したが、3月7日の引値ベースで公開価格を上回っているのは7社のみである。今日はIPO市場も含めた株式市場がこのように不調に陥った理由を考えてみよう。
株式市場の低パフォーマンスの説明に「地政学的リスク」という言葉が、新聞の記事の中に頻繁に登場する。辞書によると、「地政学(ちせいがく)」とは、ドイツ語(Geopolitik)で国家を有機体としてとらえ、その政治的発展を地理的条件から合理化しようとする理論で、スウェーデンのチェーレン(Rudolf
Kjellen 1864-1922)が提唱し、ドイツのハウスホーファーが大成。ナチスにより領土拡張の戦略論として利用された、とある。
この「地政学的リスク」が株式市場の重石になっているようであるが、実態は何なのかはっきりしない。株価は、まず第一に需給関係に影響される事は言うまでもない。今月中旬には、金融機関の株式の持ち合い解消売りが峠を越すと言われている。また、一部の投資家が投機的な売買を行なっていると言われているメガバンクの第三者割当・公募・売出に絡む大きな株価の値動きも一段落した。一方で、厚生労働省は6日、公的年金積立金による株式運用を2003年度以降も継続する方針を固めた、との報道もあった。
次にファンダメンタルズはどうなのか、と言うことになる。為替変動と原油価格の影響はまったく不透明である。しかしながら、企業はリストラを進行させており、逆境に対応できる経営モデルと体質を確立させつつあるのも事実である。来期の上場企業の業績予想に楽観は許されないものの、金融セクターを除けば、概ね今期に引き続き改善する方向性が見えている。
そうなると、市場を萎縮させているのは、「地政学的リスク」という言葉で、投資家を不安に導いているメディアの報道かもしれない。将来に対する不安感の高まりから、リスクテイクへの許容度が低くなってしまっているのが事実であろう。「戦争」という言葉は知っていても、体現した日本人は少なくなっている。そのためか、欧米のような大規模の反戦デモは日本では見かけられない。
たぶん、日本に某国からミサイルが飛んでくるとは日本国民の誰もが予想していないだろう。
「地政学的リスク」の呪縛が解ければ、その他の環境は、明らかに好転していくはずである。ややもすると、突然、その呪縛がなくなる可能性も否定できない。筆者が何度も書いているように、直近のIPO銘柄のバリエーションは非常に低く放置されており、投資先としては宝の山である。もう一度、ここ半年間にIPOした企業の内容をよくチェックして、来るべき時に備えよう。
最後に、今週末に東京IPOが開催するIR会社説明会で、機関投資家の間でも評判の独特の相場観をお持ちになる、UFJつばさ研究所のストラテジスト宮嶋勝司氏が基調講演される。読者の皆様も是非ご参会いただき、「地政学的リスク」の呪縛が解けた後に相場がどのように動くのかに注目いただきたい。
東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com
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