政府・日銀・与党は、デフレによる資産価格の減価や株価の下落への緊急対応として、減損会計の2005年度からの導入の延期や長期保有株についての時価会計凍結の議論を期末にかけて盛んに行なった。
最初に少し復習しておこう。減損会計とは、企業が持つ事業用の土地や建物などの固定資産の価値が帳簿価格を大きく下回った場合に損失処理する仕組みを言う。一方の時価会計は、株式などの企業の金融資産を時価で評価する仕組みを言う。減損会計や時価会計の導入目的は、国際会計基準に日本企業の会計基準を合わせようとするものだ。その背景には、日本企業とその上場株式に投資する投資家の国際化がある。
3月末の議論は、足下の火をなんとか消したい政治的な動きと渦中にある企業の行動が大きく対立した。その結果、3月31日の株式市場は朝方から大きく下げる展開となった。つまり、政治家が市場を無視した政策を打ち出しても、グローバルな経済活動を行っている民間企業は躊躇することなく基本方針を貫こうとする姿勢をみせたのである。
しかしながら、ここでよく考えなければいけないのは、これらのルールを上場企業すべてに当てはめる必要があるのか?ということである。確かに日経平均に大きな影響を与える上場企業の殆どはグローバルな事業展開をしている企業で、国際ルールに従った会計基準で財務諸表を作成しないとマズイ状況があるのかもしれない。実際、日本を代表するいくつかの大企業は欧米の株式市場にも上場しており、その仲間に入るには同じルールが課せられるのはやむを得ないと思われる。
だが、最近のメディアで連日取り上げられる銀行業界は、グローバルスタンダードを必ずしも強要されていない。国際業務を行なう銀行は自己資本比率が8%以上必要だが、国内基準だと4%でもOKとなる。同じ東証1部上場会社でもルールが2種類あるわけだ。これと同じ考え方をすれば、必ずしも国際会計基準の適応をすべての上場企業の強要する必然性はなくなるのではないだろうか。
例えば新興市場に上場する企業や国内での事業しか展開しない企業には選択権を与えてはいかがだろうか。
不透明な日本特有の会計基準が日本の株式に投資する外国人投資家の障壁にな
っているという議論がある。しかしながら、外国人投資家が投資対象とする上場企業は、せいぜい数百社でしかない。この数百社が国際会計基準で作成された財務諸表を開示すれば十分であり、今後、外国人投資家にも投資して欲しい企業は自発的にやればいいのではないだろうか。
確かに企業の資金調達が銀行一辺倒の日本においては、与信が担保主義であるがために、担保となる土地や金融資産の実際の価値を財務諸表に記載してもらったほうが銀行員の仕事が省けるというメリットもある。そう考えると、このルールの適用は、上場企業を外国人投資家から守り、株式市場を安定させるというよりも、金融監督庁と銀行が不良債権の処理をするのに事務処理しやすいようにするための方便とも考えられる。
東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com
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