政府は5月17日、りそなグループへの公的資金注入を決めた。普通株式で2964億円(57億株:1株52円)、議決権付優先株で1兆6636億円(83.2億株:1株200円)の総額1兆9600億円の出資となる。これにより、りそな銀行の連結自己資本比率は12.2%程度となり、政府が議決権の70%越を保有する実質国有化銀行となる。
今回の国による資本注入は、世に様々な問題を投げかけた。その中でも、筆者は、国の関知しないところで銀行経営の根幹となる自己資本比率が決まってしまっていいのか?という疑問を持った。繰り延べ税金資産なるものが自己資本に加算される為に生き延びている銀行は、りそな銀行に限った話ではなく、大手銀行11行の資本に占める繰り延べ税金資産の割合は70.5%となっている。
この繰り延べ税金資産の資本組み入れをどこまで認めるのかについては、金融庁の関与があったのか、それとも監査法人に100%委任されていたのかについての議論は国会でもあった。竹中大臣は、最初から金融庁の関与は無かった、言い切っている。と言うことは、監査法人は銀行経営者に引導を渡す役割を果たす同時に、国民の税金を使わせることになる政府の意思決定にも大きく影響を与えることになる。しかしながら、監査法人の代表社員の方も、最終的に政府に国民負担を強いることになる結論(債務超過)を導き出すことは困難であっただろうと推測する。つまり、今回のプロセスは責任所在を明らかにしないで公的資金注入という事実作りを急いだように見受けられる。
だが、一般の株主にとって重要なことは、今回の自己資本不足の引き金を誰が引いたか、その目的が何であったかではなくて、結果として債務超過という判断を誰も行なわなかったことである。もし、仮に債務超過となれば、長銀の場合と同様に、上場が廃止されて政府が全株式を買い取り、債務超過で価格がゼロとなるため、事実上、株は紙切れになる。
メディアに登場する経済評論家の中には、株主責任を問わずに、国民の税金をリスクに曝すのは、モラルハザードを引き起こすと言う。しかしながら、1株52円で国が増資する普通株式は、相場の中での出来事とは言え、すでに80円を越しており、1500億円超の含み益を保有することになる。このまま株価が堅調に推移するかどうかは、健全化計画を実行する新しい経営者次第であり、今後の進捗状況を見なければはっきりしない。
この段階で、りそな銀行を始めとする大手銀行株式が、投資対象として有望と捉えるか、官製相場には限界があると考えるかは、投資家の皆さんの判断に委ねるが、「銀行株主の責任は問われない」となると、資本主義に基づく株式市場のルールから逸脱した上場企業が存在することになるのではなかろうか。
東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com
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