市場の勢いを表現する際に、「今日の東証1部の出来高は10億株を○○日ぶりに割り込んだ」というように、10億株という出来高の水準がひとつのバロメーターになっているようだ。日経平均が最高値をつけた1990年当時の出来高も連日10億株を越える大商いが続いたが、その内容を吟味すると昨今は10億株の「質」が大きく異なるようだ。
先週金曜日14日の売買代金と売買株数を見比べると、売買代金トップ10社のうち売買株数がトップ10社に入っているのはソフトバンクのみである。売買代金トップ10社(ソフトバンク、みずほFG、三井住友FG、UFJ、NTTドコモ、キャノン、トヨタ、ファナック、東京三菱FG、味の素)の売買単位をみると、1株の会社が5社、100株が3社、1000株が2社となっている。一方、売買金額上位10社(住金、りそなHD、新日鉄、クボタ、丸紅、NEC、ソフトバンク、東芝、日立、兼松)を見ると、ソフトバンクを除
いてすべて1000株単位で取引されている。また、先週末の時価総額のトップ20社(トヨタ、NTTドコモ、NTT、日産、三菱東京FG、キャノン、ホンダ、武田、松下、ソニー、三井住友FG、野村、みずほFG、東電、りそなHD、セブンイレブン、ヤフー、ミレアHD、KDDI、UFJ)を見ると、売買単位は1株が9社、100株が6社、5社が1000株となっている。
今年に入って、東京証券取引所の売買システムがダウンしたり、買い手のいない売買が成立したり、と不具合が多くなっている。10年以上前は1日当り20億株の商いもこなしてきた東証のシステムが、10億台の出来高に対応できなくなっていることの持つ意味は非常に奥深いものがある。オンライン証券会社の台頭によって、売買手数料が低下したことが個人投資家の投資意欲を高めているとの報道もあるが、個人投資家が復活してきたのはまったく別の理由があると考えられる。個人投資家の本音は、株価のリアルタイム情報と板情報と呼ばれる市場の売り買いの価格と株数が見られるようになったところに大きな変化があるのだ。従来は証券会社とプロの投資家が高いコストを払って独占保有していた情報が個人投資家に低コストで開放されたことの持つ意味が大きい。
売買単位の引き下げと株価形成のリアルタイム情報が重なって、今日の出来高10億株が続いているわけだ。売買代金のほうも1兆円がひとつのバロメーターになっている。この1兆円の構成は、売買単価×出来高株数であるが、ここで完全に1990年と異なるのは、売買単位が小さくなって委託注文の件数が大幅に増えていることだ。毎日の市場情報に約定件数があればもっとわかりやすいが公表されていない。しかしながら、個人投資家が小口の注文を出すことによって市場に厚みができて、その結果、出来高が10億株を越す日が続いているのは間違いのない事実である。
オンライン証券会社を使って投資する個人をデイトレーダーと決め付けて疎んじるのではなく、この流動性を提供してくれる市場の女神ととらえるべきではないだろうか。特に、IPO企業は、上場日以降の流動性を如何に確保するかが重要な課題である。上場企業は個人投資家が売買しやすい1単位当りの投資額を考慮すると同時に、ファイナンス時には引受け証券会社にもオンライン証券会社をかならず入れるべきであろう。
東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com
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