先月の衆議院選挙で議論の一番手に登場した年金であるが、自主的に支払う仕組みの国民年金の未払いが37%にも及ぶらしい。社会保険庁は、未払い率の低下に歯止めをかけるべく様々な対抗策をとっている。にもかかわらず、未払いの年金保険を支払わない人が多くなってきている。一方で、民間の生命保険会社が提供する年金保険の残高は増えていると聞く。
全体主義が崩壊して、個人主義が進んでいる証拠でもあろう。では、なぜ全体主義が通じない社会になってきたのであろうか。今まで意図的かどうかはわからないが、開示されてこなかった情報がここで一気に一般公開されてきたからではないだろうか。その背景には、収支の合わない国家予算が拡大し、税金の使い方に対する国民の不満が大きくなってきたことがある。
年金は国民にとって必要不可欠なインフラであることは間違いない。ところが、一部の人間、つまり国会議員と中央官庁の役人だけで、国民を幸せにする議論をしてきたツケがまわってきたとは考えられないだろうか。集めた年金保険料と税金の使い方の不透明性に対する疑問への反逆と考えられる。
選挙での投票率の低下が日本国民の政治への意識の低さを物語っているとの議論もある。しかし、国民年金の未払い率の増加をみると、国民は情報開示が進むにつれてだんだんと賢くなってきているのではないだろうか。情報開示が中途半端で全体像が見えないことへのフラストレーションが高まり、国民が政府に頼らないで、自らの将来に対して、備え始めたようにみえる。
株式投資の世界もまったく同じ事が起こっている。それが如実に現われてきているのが、インターネット証券会社の利用である。今年に入って、個人投資家の7割がインターネット証券を利用するようになった。
先月のコラムでも書いたが、証券会社が牛耳っていた情報(リアルタイム株価・上場企業の財務情報)が、個人投資家にも行き届くような仕組みが出来上がってきたのである。もはや、対面営業の証券営業マンが保有する営業上のアドバンテージは新規公開株式の割当くらいであろう。高いコストを払っても何のメリットもない従前の証券会社に対して「NO」の決断を下した結果である。
12月も24件のIPOが予定されている。情報の開示(IR活動)に積極的な会社とそうでない会社の株価はどうなるかは言うまでもないが、重要なことは、開示される情報の内容だ。IR活動と称して、経営者が何度も投資家の前に立つのは結構だが、発信する情報(コンテンツ)には十分な準備をしていただきたい。
投資家は積極的にIPO企業の情報収集に勤しんでいる。経営者はそれに応えるのは当然であるが、投資家に対してミスリードするような情報提供を行うと、国民年金のような取り返しがつかない状況になることを肝に銘じておくべきだろう。
東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com
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