衆議院選挙前後から新聞紙面を頻繁に飾るようになった年金改革の大方針が固
まろうとしている。厚生年金の保険料が会社員の年収の18%までアップすることになりそうだ。現状が13.58%であるから、政府は差額の4.42%を13年間かけて毎年0.354%ずつ上げようという腹らしい。
国民の目線で今回の制度改革を評価すると、「よくやった」という言う人は誰もいないだろう。年金受給中の人々の受取額は今後毎年なだらかに減っていく。将来の受給者は、給付水準が現役収入の6割から5割まで下がるのである。それに加えて、基礎年金の財源における国庫負担割合が現状の1/3から1/2まで引き上げられることになる。
ここまで書いてくると、年金制度改革が日本国の財政を圧迫するばかりか、日本人と日本企業の将来に対するモチベーションを著しく下げるシナリオになっていることにしも気がつくはずだ。投資家にしても、最近の円高に加えて、ただでさえ高い日本の人件費がさらに高騰する結果になることは容易に察しがつく。日本売りにつながりかねない制度改革が発表されたことになる。
企業はリストラにより、正社員の数を減らし、パートや契約社員へのシフトを加速している。しかしながら、社会保険がかからない分だけコストダウンになったと思っていた仕組みが、政府の決定により再び負担が発生する仕組みを変るわけだ。これでは、日本国内では労働集約的な産業は今後成り立たなくなってくる可能性がある。
筆者は日本企業の国際競争力を低めているもうひとつの要因に注目したい。それは言葉の壁である。日本の産業構造をみると、「物作り大国、日本」とは言ってみても、第2次産業への依存度は年を追うごとに低下している。IT進化で国内の生産現場は省力化・自動化が推進され、どうしても「人手」が必要な部分は、生産性の高い中国を始めとするアジア諸国へシフトされつつある。
しかしながら、日本経済の核となっている第3次産業である国内のサービス業は、生産性を高める術がほとんどない。移民の受け入れがまかり通らないとすると、この分野の競争力は各種の技術が進化したとしても、人件費が高止まりすることによりサービスの対価も高くなるだろう。欧米を見ると、サービス業の中でも、通信の技術進化とコストの低下を受けて、コールセンター、システム開発、金融サービスの分野では外国からサービス提供している例もでてきている。日本においても、一部には動きがあるが、所詮は、地方にコールセンターを置く程度のことで、労働単価をドラスティックに低下できるような仕組みは日本では成立していない。その背景にあるのが、言葉の壁だ。
人口減少により日本国内の市場が縮小していく状況において、日本人が日本語
と言う言語に固執する限り、経済がグローバル化する中で戦う日本企業はハンディキャップを持ち続けることになるであろう。その意味では、海外に市場を求め、本社機能を海外に置き、社内言語を英語に統一していく動きが加速することが見込まれる。12月上場の企業の中にも、市場を海外に求め、数十名の社員数で年商200億円を実現している企業がある。読者の皆さんは、このような日本企業の国際競争力低下を逆手にとった企業を探して投資してみてはどうだろうか。
いままでThink Global ,Act Localと言われたが、これからは、Think Global
and Act Globalの時代が到来するであろう。
東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com
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