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Tokyo IPO
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株高・景気回復の裏には  〜1年前を思い出してみると・・・・〜
   東京IPO編集長 西堀 敬

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1年前を思い出してみると、地政学的リスクや銀行の不良債権問題などで株式市場は陰の局にあり、日経平均株価は4月28日のバブル崩壊以降の安値に向かって一直線に降下していた。市場心理、言い換えると投資家心理は真っ暗がりの出口の見えないトンネルの中をブレーキの利かないトロッコ列車に乗っているような気分ではなかっただろうか。昨年の3月、4月に書いた自身のコラムを読み直してみると、投資家を勇気付けるような内容ばかりであった。

この1年間の変化(2003/3末→2004/3末)を見てみる。
日経平均株価    7,972円71銭 → 11,715円39銭 (46.9%UP)
円ドルレート         119円 → 103円94銭 (14.5%UP)
長期金利(10年物国際) 0.700% → 1.435% (0.735%UP 約2倍)
金価格 335.90ドル → 424.15ドル (26.3%UP)
原油 25.0ドル → 31.2ドル(24.8%UP)
上場企業株式含み益  ▲3兆6000億円 → 6兆5000億円 (10兆1000億円改善)
大手銀行株含み益   ▲1兆2000億円 → 3兆3000億円 (4兆5000億円改善)
大手生保株含み益   ▲3700億円 → 4兆9000億円(5兆2700億円改善)
(数値出典:日経新聞2004年4月1日記事より)   

こうして数字を比べてみると、まず目を引くのが株式含み益の改善が進んだことだ。上場事業会社は昨年度末の決算では本業の儲けを株式の評価損でなくしてしまい、赤字に転落したところも少なからずあった。今期の決算では自己資本へ参入すべき株式評価益が出てくる始末だ。しかしながら株式市場の動きとは別に、上場企業の経常利益は、昨年の3月期に完全に底打ちし、今3月期の伸び率は相当なものになりそうだ。2005年3月期に関しても成長は鈍化するかもしれないが、経常利益の二桁成長が見込まれている。

この結果、企業の景況感が改善するのは当然のことであるが、一方で忍び寄る影が存在するのも事実である。原油価格は25%の上昇。商品市況のベンチマークになる金価格も26%UPである。日本企業はここ数年で設備と人の二つの固定費削減に目途をつけたが、ここにきて素材インフレが起こりつつあり、今度は原材料のコストが上がろうとしている。一方で長期金利のほうもじわじわと上昇のトレンドを見せはじめている。企業努力で如何ともし難い二つの要素をどのように克服していくのかが、日本企業に課せられた新たな課題ではなかろうか。

ネガティブな要因とも受け止められる円ドル為替レートのほうは、1年間で15円(15%弱)の円高となった。しかしながら、日本の大手輸出企業は原材料を輸入し加工して輸出する仕組みになっていることを考えれば、ここのところ進んでいる円高ドル安の動きは決してネガティブなファクターではなく、素材コストのアップを吸収して、うまくバランスしている可能性も否定できない。個別の企業の外貨建売上を円換算するときに減収になる部分だけがフォーカスされて報道されるが、実際の企業はうまくマネージしているのではないだろうか。

日銀の為替介入にしても、ドルを買った資金は米国債で運用され、米国の安定した低金利をサポートし、そのお陰で米国の株式市場も崩れずにすんでいる。また、外国人投資家は米国株式市場のパフォーマンスの恩恵で投資余力が増して日本株を買い、それがまた円高を誘発すると言う構図が描ける。 

風が吹けば桶屋が儲かるではないが、点で起こっている事象はすべて線で結ばれ、今回の日本の景気回復と株式市場の堅調さを支持しているように思える。まず誰もが知っている点の事象を起したのは誰か。不良債権の処理というきっかけを作り強引に推し進めたのは誰もが知っている竹中大臣である。その政策決定を受けて振り子を反対に動かしたのが外国人投資家である。1年間でこのようにすばらしい環境の変化を演出するのはそうそう容易なことではない。うがった見方をすれば、どこかに大物のトータルプロデューサーがいて仕組んだのではないかと思うほど素晴らしく出来がいいと感じるのは筆者だけであろうか。


東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com

 


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