政府提出の年金制度改革関連法案は5月11日午後の衆院本会議で可決されたが、その内容を読者はご存知だろうか? ほとんど読者はサラリーマン諸氏だと思うが、厚生年金保険料が2017年まで毎年少しずつ上昇することくらいは認識しているのではなかろうか。一方で、基礎年金(国民年金)の原資は2009年には国庫負担割合が二分の一になることが決定された。保険料が上昇するとともに税金の使途として年金への支出が多くなるわけであるが、それでも給付水準は現在の59.3%から2023年には50.2%への低下していくのである。財政検証が5年ごとに実施されることになっているので、このルールは最低5年間は変更はされないだろう。
年金改革の概要を見て、少子高齢化の流れを見ればやむを得ないと考える人も多いだろうが、今回の改正の前提条件を見ると、やむを得ない時代背景以上に不安感が募る。厚生労働省のホームページ(
http://www.mhlw.go.jp/index.html
)に詳細があるので時間のある方は読んでいただきたい。この場では、筆者が気になる部分の前提条件を抜粋する。
1.出生率 2000年 1.36 → 2050年 1.39
2.平均寿命 2000年 男:77.64年 女:84.62年
2025年 男:80.95年 女:89.22年
3.労働力 男性 60−64歳 2001年 72.0% → 2025年 85.0%
女性 30-34歳 2001年 58.8% → 2025年 65.0%
4.物価上昇率 2003年 -0.3 2004年 -0.2 2005年 0.5 2006年 1.2
2007年1.5 2008年 1.9
5.賃金上昇率 2003年 0.0 2004年 0.6 2005年 1.3 2006年 2.0 2007年 2.3
2008年 2.1
6.運用利回り 2003年 0.8 2004年 0.9 2005年 1.6 2006年 2.3 2007年 2.6
2008年 3.2
ざっと見ただけでも、非常に楽観的な前提条件となっているとは思うのは私だけだろうか。この前提を見ると子供は微増し、日本人は長生きをするようになるがその分高齢になっても仕事を続けないといけない。物価の下落は止まり上昇に転ずるが、賃金もそれに合わせて上昇する。驚くことに運用利回りが毎年上昇していくことになっている。たぶん、日本経済の状況は良くなり金利が上昇してくることを念頭においているのではないだろうか。
このような前提条件をもとに、年金受給者のシニア層はどのような資産運用の行動をとるだろうか。もし、私が現在65歳で年金生活を始めたとしたら、とりあえずは、年金は頂けるものとして虎の子の預金はペイオフを考慮の上リスク分散するのではなかろうか。あえて運用のリスクをとる必要はしばらくはなさそうだ。なぜならば、5〜10年くらいの間は、たとえ政権が変わろうとも政府は今回の改正ルールを守ると考えられるからである。たとえ理不尽なルールであっても、時の政治家が世代交代するまでは、法律をなかなか変えられないのが日本という国であることは皆様よくご存知のはずである。
同じ前提条件でも、20年後、30年後に年金受給が始まる世代の方々にとっては、相当受け止め方が異なってくるのではないだろうか。ますます年金は当てにはならないというのが本音ではないだろうか。企業から社員に対して支払われる報酬は、業績連動と個人の評価をベースに決まってくる時代である。そのような時代が到来しているにも関わらず、国が国民全員の老後を面倒見てあげる制度はどう考えても労働の中核を担っている世代の国民の納得を得にくいのではないだろうか。なぜならば、何においても自己責任が問われる時代に、我々が日々生きている世界との価値観が乖離している制度だからである。
つまり、資産運用を真剣に考えなければいけない世代はシニア層ではなく、今まさに年金生活者を支えている働き盛りの世代ではないだろうか。ところが、運用が必要な世代には運用するための資産がますますなくなるというジレンマが存在する。しかしながら世の中は良くできたもので、シニア層の金融資産は最終的には相続という形で世代間を移動し、その一部は相続税として国庫を支えるのではないだろうか。筆者のような淡い期待は禁物であろうか・・・・。
東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com
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