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投資を考えるシリーズ〜6.本物の投資家になるために
株式会社KCR総研 代表取締役 金田洋次郎(証券アナリスト・IRコンサルタント)
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本題に入る前に、最近の株価にまつわる話題をひとつ紹介しよう。去年の春頃、私は、二つの銘柄に注目していた。両社には申し訳ないが、二銘柄ともボロ株と呼ばれる類のものである。無配で低位株。片方は化粧品の雄、カネボウともう片方は、AV機器の名門、ケンウッドである。どちらも3月決算。当時の3月末の期末株価は、カネボウ120円、ケンウッド190円。どちらも100円台で個人投資家が手がけやすい水準にあった。問題は中身である。当時の四季報を見てみると、どちらも回復基調のコメントが書かれている。カネボウにおいては、堅調とした上で、「繊維は市況弱含みで低迷続くが化粧品・食品の順調で収益下支え。繊維は合理化で赤字脱却の公算。特損なくなり最終益は続伸」と力強いコメントが書かれている。一方のケンウッドにおいても、増益とした上で「カー音響堅調。拠点集約のリストラ効果で営業増益、12月に債務超過解消。繰損解消が課題に」とある。これらのコメントを読む限りでは、どちらも堅調に業績が回復しつつあることを伺わせる内容といえる。
しかし、この1年間で両社の未来は大きく違っていた。片や実質的な破綻とも言える産業再生機構の軍門下にくだり、片やリストラの集大成ともいえる劇的な減増資を実施し、企業体質を早期に健全化することに成功したのである。株価のパフォーマンスは、比較するべくもない。ケンウッドは、昨年7月に398円の天井高を早々とつけているのに比べカネボウは今年、4月につけた瞬間風速の197円がやっとで、そのあとは75円まで急落するジェット・コースター状態。株主責任を問う意味での99.7%の減資が発表された現在は100円を挟んでの拮抗状態だ。それにしても99.7%も減資をする企業の株価が未だになぜ、100円台をキープできているのか全くもって謎だが、これも名門カネボウの将来に期待するご祝儀相場と考えるべきなのだろうか。投機マネーが大量に流れ込んでいるとはいえ、株価の動きだけを見ていると全く持って我々のような専門家もチンプンカンプンなのが正直な感想だ。
そろそろ本題に入ろう。私は、前回のコラムで、短期のディーリングと中長期の成長株投資を比較し、両者の投資スタイルを考えるとき、片方は、株価を見、片方は会社を見ることに気がつくだろうと述べた。この考え方は、ずばり前出のカネボウとケンウッドの比較にみることができる。もともと、私がケンウッドに興味を持ったのは、日曜日にたまたまぶらりと、大阪梅田のヨドバシカメラに立ち寄ったのがきっかけである。パソコンの新機種でも見ようと入ったのだが、隣接するAV売り場に斬新なデザインのケンウッドブランドが並んでいるのに目を引かれたのである。特にMDなどコンパクトな商品が小洒落てて、しかも値段が手頃ときている。思わず、衝動買いをしてしまったが、その時私は、ケンウッドといえば、かっての名門アカイやサンスイなど、同業がどんどん凋落している中で、確か同社もかなり苦境に喘いでいるとの印象があった。早速、帰って調べてみると、同社はリストラの真っ最中。しかもあの長銀を再生させた米リップルウッド・ホールディングスで学んだ東芝出身の経営者が乗り込んで同社を再建しているというのだ。私は、益々興味をそそられた。再建請負人の名は、河原春郎社長。今では、和製ゴーンと呼ばれている経営者である。同氏の経営再建の腕前は、目を見張るものがあるが、何よりケンウッドブランドを早期に復活させたことが最大の功績であろう。そして、その再建の功績は、数多くの情報を収集する前に、商品と言うかたちで、既にヨドバシカメラの店頭で私自身にケンウッドを高く評価させていたのである。こうした例は、私たちの身の回りに、投資のための数多くのヒントが溢れていることを示唆してくれている。株価ではなく会社を見ることの重要性を表すよい例の一つということができるだろう。
片や、カネボウの経営陣はどうか。実は、カネボウの連結業績は、売上高約5200億円と10年以上前の1993年当時から1500億円程度しか減少していない。その頃から繊維は苦境に喘いでおり、リストラを実行中とある。しかし、驚くべきことは、その後の財務体質のリストラ進捗度合いにある。当時、2700億円程度であった有利子負債は、その後10年間で、なんと5000億円以上へと倍増しているのである。リストラしているのに借金が増え続けるリストラなんて聞いたことがない。ケンウッドと違い、債務超過ではないとしていたのに、蓋を開ければ今期末で3553億円もの連結債務超過。最近では旧役員人の粉飾疑惑まで飛び出ている。遅かれ早かれ、カネボウの行く先は決まっていたのだ。ここ数ヶ月のカネボウの株価は、こうした同社の隠蔽体質を反映して、完全におもちゃ状態になっている。花王との合弁を図るかと思いきや、買収交渉決裂、再生機構へ救いを求め、経営陣が必死の生き残りを図るも、社長辞任、役員総退陣に追い込まれる。値踏みしすぎて大型買収を逃した花王もかなり苦々しい思いをしていることだろうが、ここ数ヶ月の動きは、誰にも予測できないドラマの連続であったことは間違いない。無論、アナリストといえどもこうしたカネボウの展開の予測は不可能だ。勢い投資家は株価を見て投資することになる。こうした投資スタイルは、波乱万丈の株価がお好みの方には適していると思うが、その投資スタイルは勘のみに依存しているといっても過言ではない。私がカネボウの株主であったら、こうした現状から一刻も早く抜け出たいと思うのだが・・・。
株式会社KCR総研 代表取締役 金田洋次郎
(証券アナリスト・IRコンサルタント)
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