近鉄とオリックスの球団合併が新聞紙上を連日賑わしている。合併という形式をとっているものの、誰も買い手の居ない近鉄を償却するためにオリックスが手を貸したというのが実態のように思われる。合併するオリックスの直接的なメリットは見えないが、これを契機に1リーグ制へのセパ統合の議論を高めたいという思惑であろう。私自身はプロ野球は全く見ないのであるが、しかし、子供の頃は熱狂的な野球ファンであった。東京生まれということもあって巨人ファンだった時期が長かった。それが段々と興味を失っていったのは何故だろうと考えてみると、巨人が勝てば良いというプロ野球やファンのあり方に疑問を持ったことにある。野球協約の盲点を突いた江川卓の獲得に始まって、フリーエージェント制が出来てからは有力選手を根こそぎ獲得する巨人のあり様は、"金"という名のドーピングをしているようにしか見えない。それをこれまで"是"としてきた巨人ファンは「野球を面白くないものにしてしまった」戦犯であり、その罪は重いと言える。
セルサイドの証券アナリストの世界にもこれに似た様子がある。もちろん、ビジネスであり資本の論理の世界であるだけに、スポーツのように戦力の均衡が投資家のメリットになるとは必ずしも言えない。金の力にモノを言わせて有力アナリストを引き抜く行為そのものを否定できるものでもない。しかし、以下に示すように、それによって起こり得る二次的な弊害がやがては投資家にとってのデメリットとして顕在化する可能性だけは認識をしておいていただきたい。相場の回復から証券会社各社の業績もかなり好転したのにもかかわらず、中堅以下の証券会社ではアナリストを増員しようとする機運が薄い。これは中堅証券の調査部が、大手証券や外資系証券の草刈場になってしまっていることが大きな要因である。アナリストの養成には3年以上の期間は必要になるが、折角、一人前になった頃に引き抜かれてしまうということが非常に多いようだ。これではわざわざ育てる意味がない。その結果、中堅証券でも中途採用に重心を置くようになる。もともと外資系では殆どアナリストの人材育成を行っていないことから、そうするとアナリストそのものの供給が減る結果、アナリストの給与の高止まりと引き抜き合戦が継続することになる。
こうした引き抜き合戦に耐えられなくなった証券会社が撤退してゆく。その結果、特定企業に対してフォローしているアナリストの絶対数が減少してゆく。アナリストの層が薄くなると特定のアナリストが株価に与える影響が強くなる。その結果、90年代後半に起こったような二極化相場が起こりやすい状況が作られる。最近のアナリスト人気ランキングの得票数において上位者への集中度が高まっているのはこのようなことが背景として考えられるのではないだろうか。
また、アナリストの所属先が減少することは危険な兆候でもある。失業に対する危機感が高まることは、所属会社にとって不利なオピニオンをアナリストは発し難くなる。アナリストは聖職ではない。多くのサラリーマンと同様に家族も居れば、住宅ローンも抱えている。家族を路頭に迷わすようなことは、普通はしない。大手証券や外資系証券の収益の大きな部分をインベストメントバンク(=投資銀行)業務が担っているだけに、中立性ルールをどれだけ厳格化してみても結果的には手口が巧妙化するだけに過ぎない可能性も指摘できる。実際、手数料率が下がる中で、引受け案件は高い販売手数料が見込めるだけに、営業部門(=ブローカー部門)でも引受け案件は歓迎されているようだ。そうした株式についてポジティブな発言をするアナリストは当然ながらブローカー部門から高い評価を受ける。つまり、アナリストはインベストメントバンクの直接的な支配からは逃れたものの、証券会社の収益構造がインベストバンクに傾斜してゆく限り、蜘蛛の糸からは逃れられないことを意味しているのではないだろうか。
証券ビジネスは、スポーツではない。弱肉強食であって然るべきである。しかし、多くの投資家が参加者として存在することによって成り立っているということはある意味、プロスポーツに似ている。つまりは、投資家を呼び込むための仕組みを強化してゆかなければならない。オピニオンの発信者としてのアナリストも市場を活性化させてゆくための手段としてその在り方が問われている。
投資家(機関投資家を含む)も、アナリスト達も、発行会社も「自分が勝てば(儲かれば)良い」というだけではなく、証券市場をより活性化するには何をすべきか、どのような仕組みが望ましいのかをもっと考えてもらいたい。巨人1チームでは試合が出来ないように多くの参加者が居ないと市場が成立しないのだから。
余談ですが、プロ野球の経営について興味のある方には以下の本をお勧めします。
プロ野球ビジネスのしくみ 宝島社新書
小林 至 (著), 別冊宝島編集部 (著)
株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
代表取締役 藤根 靖晃
(私は西本聖のファンだった)
株式会社ティー・アイ・ダヴリュHPはこちら⇒ http://www.tiw.jp
レポートはこちら⇒ http://www.nifty.com/takumianalyst/
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