┏ ――――――――――――――――――――――――――――― ┓
新規公開株式情報の東京IPO
http://www.tokyoipo.com/
┗ ――――――――――――――――――――――――――――― ┛
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
年金問題よりも深刻化している介護の現状
〜訪問介護事業を営むケア21(ヘラクレス2373)依田社長に聞く〜
   東京IPO編集長 西堀敬
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

参議院選挙も終わり今年の夏の政治イベントも終わってしまった。選挙の期間中は自民党が強行採決した年金法案への非難を掲げて選挙戦を戦った民主党であったが、その声も本格的な夏の到来でセミの声にかき消されてしまったかのような今日この頃である。

選挙やメディアの報道で大きくクローズアップされた年金だったが、年金問題の先にある老後の生活に関する問題についてはまだ大きな議論になっていないような気がする。筆者が昨年の12月にコラムで取り上げた介護の問題はまだ手付かず状況である。身近な問題として両親や祖父母の介護で自らの健康までも犠牲にされているかたもいらっしゃるようだ。少子高齢化時代の流れの中で、老人介護の仕組みはどこまで進んでいるのだろうか。

まず公表されているデータから見てみる。
要介護認定者数 昨年4月  348万人   今年4月 387万人  11%増
居宅介護受給数 昨年4月  194万人   今年4月 223万人  15%増
施設介護受給数 昨年4月   71万人   今年4月 74万人   5%増
保険給付決定額 昨年4月  3740億円   今年4月  4185億円  12%増
平成16年6月末の日本の推定人口は1億2776万人、そのうち65歳以上が19.4%で2478万人、75歳以上が8.6%で1099万人となっている。2050年には65歳以上の比率が34.7%まで上昇すると推測されている。単純計算をしても、要介護認定者数は現在の2倍近くになり、より高齢化が進めば保険給付額は認定者数の増加率以上の伸びが見込まれるはずである。この4月単月で4000億円の給付が行われており、年換算では5兆円にも上る額が支給されることになる。この額が老齢者数の増加と要介護者数の割合の増加に後押しされて年間10兆円を超えてくるのも時間の問題であろう。国家の支出を見ると相当な額になり、過去は公共事業という名目で橋や道路を作るのに首都圏を中心とする土木建築業者に流れたお金が、質の違った国民サービスとして別の事業体を通して人口分布に応じて地方まで流れることになると考えられる。

今日5兆円以上の規模がある介護業界において、昨年上場したケア21の依田社長に同社の事業について足元の動きを聞いてみた。
(同社のインタビューは昨年12月8日にも掲載
  ⇒ http://www.tokyoipo.co.jp/m20031208-1.htm

同社は2004年4月中間決算を7月上旬に発表した。売上は前期比71%増、経常利益は赤字転落となった。株価の動きは中間決算発表後弱含みで推移している。

一見すると足元の業績が不調のように見えるが、筆者は、世の中の大きな流れの中で、先手を打って動きを早めただけに過ぎないと見ている。同社の事業展開で注目すべきことは、この上期に22ヶ所にステーションを出店し、そのうち東京都で集中して15ヶ所に出店していることである。まず半期で22ヶ所への出店であるが、過去の実績は昨年1年間で20ヶ所だったことからすると相当な先行投資を行ったと言える。それにもまして1年前まで1ヶ所しかなかった首都圏のステーション数を1年で一気に24ヶ所まで増やしたことは地の利のない当社にとっては大英断であったと言える。しかしながら当社の事業の核である訪問介護を行う事業所数は大阪府の2167件にくらべて東京都は2035件とまだ少ない上に、訪問介護給付費はその逆にこの2月で大阪府が月額50億円に対して東京都は85億円と金額ベースでは大きいのである。従って人口密集地の東京への出店加速は当社の事業を推進するうえでは欠かせない戦略であるといえる。

当社のビジネスモデルはステーション開店後約9ヶ月で営業黒字化を実現している実績を持つ。今期の出店計画は29店としているので、下期は7店にとどまり、先行投資は上期に集中したといえる。上期に出店したステーションが黒字化するのは来期に入ってからということになろうが、下期は先行投資が少なくなる分だけ上期に比べ利益は改善する計画である。いったん黒字化されたステーションは赤字転落する可能性は非常に低く、新規ステーションの出店数と9ヶ月間の赤字額を吸収できる事業規模のバランスが重要となってくる。この微妙なバランスを保ちながら事業規模を拡大できる出店件数を同社は2005年10月期50店、2006年10月期80店を見込んでいる。

筆者は、12月のインタビュー記事でも書いたことであるが、介護事業は非常に公共性が高く品質にばらつきがあってはいけないサービス事業だといえる。当社の強みは、事業推進で一番大切なものとして人材に重きをおいている点である。上期に首都圏で15ヶ所出店しているが、その際に必要とされるケアマネジャーの確保をスムーズに行えたところに今後の事業展開を占うヒントがあるように思える。

「介護は教育、人を大事に育てる」というサービスを受ける人の立場を踏まえて会社を経営されている依田社長の謙虚さの中に、乱立する介護事業者の中で当社を勝ち残り企業に導くポイントがありそうな気がする。

ケア21ホームページ ⇒ http://www.care21.co.jp/

東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com

(c) 1999-2004 Tokyo IPO. All rights Reserved.