このあつさは一体どうなってるんだ、と考え込んでしまう。猛暑は天候だけの話ではない。IPO市場での話だ。
先月のこの欄では、世間が普通に戻りつつあると書いた。ところが今度は再びヒートアップの様相だ。下げ過ぎと上げ過ぎの振り子がIPO市場を揺さぶっている。7月上旬にははっきりと低下傾向を見せていた10社移動平均での初値倍率が、中旬には再び上昇してきたからだ。ここでは、米国の株式市場動向や政局の動きなどとは隔絶した世界を現出させている。
人気の背景には、個人投資家の市場参加が厚くなってきているからだと述べたことがある。これはいまも変わらない。さらにその深層にあるのは、投資に追いやられる時代の「気分」も存在しているからではないかと思わせるものがある。「気分」に乗っているのは個人ばかりではない。ベンチャーキャピタル会社は、未公開株式へ投資し、株式公開後にその株式を市場売却して利益を得る業態だ。だが、現実の活動は投資資金を集めてその管理報酬を得る側面が強い。
その投資資金募集額も、桁が格段に大きくなってきている。プライベートエクイティへ投資しようとする法人・機関投資家が増加してきているからだ。理屈は簡単なことだ。初値倍率の高い状態が普通の状態なのだとすれば、公募価格が形成される前に、それ以下の価格で株式を入手しておけば儲けはより大きくなる。出資機会が早ければ早いほど、その評価額は低い。リスクを背負う分は安くなって当然なのだが、IPO人気が高ければ、そのリスクは軽減される。VCファンドへ出資しようとする資金運用者が増えるのは不思議なことではない。企業へ投資しようとする「気分」は、資金運用者だけに高まっているのではない。
最近の新聞報道によれば、企業経営者の46%は、事業機会確保のためにM&Aの活用が有効だと考え始めている。事業の売買が普通の風土になりつつある。所謂、再生ファンドへの出資者も幅が広がってきている。価格が一価ではない、変動するものへの投資こそが儲かる、という「気分」は、単に部分的なものではなくなってきている。全体が熱いわけだ。
日系投資会社在籍 P.N.候鳥(わたりどり)
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