9月18日の日本経済新聞証券欄の“個人投資家Now”という特集の中で、IPO銘柄の抽選が当たらないことが個人投資家の「いらだち」になっているとことが記事になっていた。IPO人気の中で、投資信託など他の商品との抱合せ販売が横行している、と。その記事を読みながら、数ヶ月前に或る昨年IPOを行った企業の役員の方が次にように言っていたのをふっと思い出した。「IPOのロードショーを回っていて思ったんですけど、株の販売先は大口の投資家に最初から決まっていて、なかなか一般の個人には当たらないような仕組みになっている。知り合いにも色々な証券会社に口座を作ってブックビルディングの入札を頑張っている人がいるけれど、気の毒になってしまう。」
私自身はリテール営業の現場を良く知っているわけではないが、現在のように買えば必ず儲かるというようなIPOの公募株を証券会社では「メリット商品」と呼ぶ。メリット商品の割当は、大口投資家を優先するというビジネスの論理も分からないでもない。しかし、実際には当たる確立が著しく小さいにもかかわらず、チャンスがあるような幻想を一般個人投資家に持たせているような構造には“罪”があるように思えてならない。
また、現在の日本のIPO株式の割当方法には、スピニング(spinning)が行われる余地が多く残されているという点も問題である。スピニングとは、IPOの公募価格がかなり低めで設定されることによって、証券会社(投資銀行部門)は儲かる株を企業の経営幹部に割当てて、その企業の投資銀行業務の獲得を目指すものである。本来、IPOの公募価格が実勢よりも低ければ、企業にとっては資金調達額でデメリットとなるものであるが、自らもスピニングの恩恵を受けているのであれば、企業幹部からは不平は出てこない。これまで、こうした行為に対する明確な規制は無かったのであるが、米国では、2002年12月に規制当局(SEC、NASAA、NASD、NYSEなど)と証券会社が利益相反問題において和解を行った際にスピニングの完全禁止が規制内容に盛り込まれた。日本でも証券業協会において1997年に「株券等の引き受けに関わる顧客配分について」という内容で理事会決議が行われており、この中で「公平な配分」、「配分の基本方針の策定及び公表」が謳われている。しかし、刑事処罰を伴う米国と違って、日本の場合は罰則規定の無い業界自主ルールに止まっている点は将来、火種になる可能性を残しているとも言える。実際、「配分の基本方針」についてホームページ上で公表を行っているのは極く僅かな証券会社に限られている。
個人投資家層が広がりつつある今、スピニングではないにしても、IPO株式を優良顧客へのメリット供与に提供する行為そのものが、問題視される可能性もあるだろう。漸く、立ち上がってきた個人投資家の裾野拡大の流れを止めないためにも証券業界は市場の民主化に向けた更なる自己変革を求められるタイミングにあると考える。これは証券会社だけでなく、発行企業の側にも言える。分配が公平に行われたかどうかを、発行企業側でも十二分に管理しなければならないだろう。アナリストもまたCSRの観点からこうした点にも言及することが求められるであろう。
株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
代表取締役 藤根 靖晃
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