読者の皆さんは、パソコンの中身をご覧になったことがあるだろうか? 筆者はパソコンは道具としては使うが、パソコンを分解したり、自ら組み立てたことはない。仕事柄、いろんな会社を訪問する機会があって、電子部品を扱っている会社ではパソコンの中身を見せられることが多い。驚くことは、部品の多さだ。手にとって見ることができないくらいの小さな電子部品がところ狭しと並んでいる。今回の取材で10月13日に東証マザーズに上場されたチップワンストップの高乗(こうじょう)社長に電子部品商社の業界についてお話をお伺いした。
チップワンストップは、半導体・電子部品などをインターネットを使って販売する企業である。言葉を変えれば、電子部品のB2Bイーコマース企業と言っても差し支えなかろう。さて、チップワンストップを経営する高乗社長であるが、大学卒業後に総合商社の日商岩井(現、双日)に入社し、情報産業本部で情報やコンテンツのビジネスを手がけた後に米国日商岩井のシリコンバレー駐在員として派遣されており、国内外のビジネスで直接電子部品を自らが手掛けた経験はなかったようだ。米国内において屈指のベンチャー企業家の集まるシリコンバレーにおいて、米国流の起業と創業を支援するためにベンチャーキャピタルを設立し、数多くのビジネスモデルを研究している中で半導体の部品を流通させる構造が日本と米国では異なることに目をつけたのが創業のきっかけとなった。
まず、当社のビジネスモデルの発端となる日米の半導体部品の流通構造について説明をしておこう。高乗社長のお話によると、日本の電子部品流通は大手の半導体商社がメーカーごとに系列化されており、大口の量産品目を扱うのが得意だそうだ。一方、米国では顧客のニーズ別に棲み分けられた電子部品毎に流通する仕組みが存在する。そこで考えついたのが、日本の半導体・電子部品の市場の約5〜6兆円の中で従来の半導体商社には無いターゲットとして電子機器メーカーの設計・開発部門を選択し、設計・試作用の半導体・電子部品を少量多品種で一括して短納期で販売するビジネスモデルに特化することにした。
営業の手法は、日本の大手半導体商社のようなメーカーの技術支援型営業ではなく、インターネット上におそよ500万点の部品を掲載し、登録された会員からのみに注文を受け付けている。当社の特徴は、提携サプライヤー600社の在庫・納期・価格情報をウェッブ上で見えるようにしているだけでなく、品切れや生産中止になった部品などに関しては、当社のトレーダーが電話で対応し同じ規格の部品を探し出すというクリック&モルタル型のビジネスを展開している。また、顧客からの「いますぐに欲しい」という要求に応えるべく、注文からデリバリーまでのスピードを売り物している。
当社は大手の半導体商社との戦いにあえて参戦しないのは、その高い粗利率にあると筆者は分析する。高乗社長によるとチップワンストップと同様に少量多品種用途向けビジネスモデルを掲げる米国の電子部品商社の粗利率は40%程度だそうだ。それに比べて日本の大手半導体商社の粗利率は10%内外の水準である。当社の粗利率は前期ベースで33%であるが、ここのところ徐々にその率は上昇基調にあり、高乗社長は30〜40%の水準で推移させていきたいそうだ。一方で、当社の標的市場規模は半導体・電子部品全体の10分の1の4〜5000億円であるが、現在の当社の年商20億円からすれば相当の規模がターゲットになってくる。
インターネットというツールを使ってビジネスを創造していく当社にとってのモデル確立の証となる年商の水準は100億円だと高乗社長は言い切る。また、高乗社長の株式の持分が10%を切る株主構成の当社にとって、戦略パートナーを中心とした株主からは本物の経営が求められている。経営と執行と所有が分離されている当社にとっては、むやみやたらに他分野への進出を図ることは許されておらず、周辺事業から出ることなく事業を拡大していく必要がある。その前提で今後の市場の拡張性を考えたときに、アジアや中国などの海外に求めるだけでなく、日本という国が「製造立国」から「研究立国」に移り変わっいく過程において、日本の市場は大きく変わっていくと高乗社長は予想する。半導体部品業界のビジョナリストカンパニーとして当社の動向には注目していきたい。
東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com
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