ウォーレン・バフェットの投資手法に関し、学ぶべき点は多い。ここでは、解説書によく出てくるバフェットの投資原則をおさらいしてみよう。彼が投資銘柄をどのように分析し選別しているかは、まずは4つのカテゴリーに分類される。すなわち、企業に関する原則、経営に関する原則、財務に関する原則、マーケットに関する原則である。銘柄選別は、この4つの側面からアプローチを行う。
まず企業に関する原則については、事業自体に関する3つの基本特性があるとしており、それはすなわち、「その事業は簡明でわかりやすいか、安定した業績を続けているか、長期的な明るい展望があるか」という3点であるとしている。前にも話したと思うが、賢明な投資家であるためには、分かりやすいものに投資対象を絞るべきである。株の素人であっても、身近な変化を機敏につかみ投資対象を絞り込むことは成功への近道となる。街を歩いていて、繁盛している店などその店や商品から投資のヒントをつかむことは重要なことである。ヒントをつかんだら次はその企業なり商品をよく調べることだ。よく売れている商品だからといって、販売元が大手であれば売上の1割にも満たないことがある。これでは、当該企業の大きな成長要因とはならない。商品に惚れこんでも、当の企業実態を見極めていく冷静な姿勢が必要だ。例えば、現在市場のブームともいえるバイオ企業、高い時価総額がついている場合が多いが、こうした企業は我々のようなプロでさえも将来予測は難しく極めて分かりにくい企業の典型といえる。将来性はあるのかもしれないが、分かりにくく足元のビジネスが貧弱であることを鑑みると投資対象からは劣後する見方が自然であると思う。
次に、経営に関する原則としては、「経営者が合理性を尊重する人物であるか、その姿勢は株主に対して公平で誠実であるか、横並びの圧力に屈しないか」という3点からの分析が重要であるとしている。前者の2点は分かりやすいかもしれないが、最後の横並びの圧力に屈しないとはどういうことを指しているのだろうか。実は、この点は多くの日本企業に見られる習性ともいえ興味深い。つまり他人と常に同じ事をしたがる組織の習性というか、出る杭は打たれるとの発想から、あまり目立ったことはしないでおこうという保守的な考え方の企業を指している。こうした企業経営者は、発想が貧弱で、企業行動は常に同業他社の動きなどを見て行動する。そのテーマは、事業の拡大、役員報酬決定、企業買収など、どんなことでも無批判に模倣されるというのだ。こうした企業経営者は、将来において魅力がなく企業競争に負けやすいとの発想は、頷けるものがあるといえよう。
そして、財務に関する原則においては、「EPS(一株当り利益)ではなくROE(株主資本利益率)を重視する、オーナー収益を計算する、売上高利益率の高い企業を探す」としている。オーナー収益とは聞きなれない言葉だが、キャッシュフローから設備投資、運転資金を引いた金額を言う。これは、いかなる業種であれ設備投資は不可欠であり、単なるキャッシュフローだけでは企業の実体価値を見極められない考え方に拠っている。企業決算の損益計算書の利益ばかり目を奪われている投資家は、少なくとも、もう一歩踏み込んで、キャッシュフロー表にも目を通すようにお勧めしたい。
最後にマーケットに関する原則であるが、「企業の真の価値を決定すること、企業の価値に関して大幅に割安な価格で買えるか」とうことに注目せよとしている。少し専門的になるが現在企業価値は、当該企業が生み出す将来のキャッシュフローを予想し、それを適切な割引率で割り戻すことによって算出できる。DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法などはその典型であるが、こうした理論株価を弾くことは、注目する企業が割安なのか割高なのか判断する際、重要な指標といえる。そして、実体価値を見極め、その価値よりも株価が安く推移している時に買わなければならないのだ。こうした理論値は、定量分析により可能となるが、実は企業価値より低い値段で推移している企業はけっこうあるのである。こうした企業で目立たない会社は、ある日突然、外資系ファンドなどに買い占められて慌てふためくなどという構図を描くことも多い。適切な投資判断を下すため、こうした分析を進めるためには、やはり証券アナリストや投資顧問などの専門家のアドバイザーとめぐり合うのも勝つための投資戦略として重要といえよう。
株式会社KCR総研 代表取締役 金田洋次郎
(証券アナリスト・IRコンサルタント)
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