筆者は9月6日のコラムで「顧客価値創造を忘れた企業の存在意義とは?」というタイトルでダイエーについて意見したが、その後ダイエーは、10月13日の取締役会にて産業再生機構を活用することについて決議した。
先週のテレビでダイエーの高木前社長が産業再生機構を活用するまでの経緯についてのドキュメンタリー番組が放映された。その番組を観て考えたことは、「企業が守りつづけなければならないものは何か?」という問いである。番組のクロージングで、取材者から、何が高木前社長に産業再生機構の活用をそこまで躊躇させたのか?という質問が投げかけられた。その答えは、「社員、取引先、お客様のことを考えて、ダイエーのスタイルで商売を続けることへの執着」であった。
筆者は、ダイエーの一顧客として、ダイエーの顧客価値創造は存在しない、と9月6日のコラムで書いた。「ダイエー」という企業名を出したときに誰もが思い浮かべるのは、創業者の中内功氏ではなかろうか。私見ではあるが、リクルート、プロ野球ホークス、オリエンタルホテル等々の買収を行った中内氏のビジネスゴールと高木氏のゴールはまったく異なっていたと考えたい。
高木氏はきっと主婦の店ダイエー回帰を願ったのではないだろうか?ダイエーが顧客価値創造をできる分野のビジネスはどこにあるのかを知り尽くしていて、そこにフォーカスすればかならず復活できると信じ込んでいたに違いない。 そのように考えると、ダイエーの経営者として守らねばならなかったものは正しかったといえなくもない。しかしながら、過去の本業以外への投資のつけが重く、新たな投資のできない現状のダイエーの顧客価値創造程度ではお客様を満足させることはできなかったのである。結果として、ダイエーのコアビジネスがノンコアビジネスに押しつぶされたのである。
ここで筆者からの提言であるが、IPOされる企業は必ずコアビジネスを持っているはずである。創業当時のコアビジネスに限界を感じて、コアビジネスの顧客を違うビジネスの顧客にしようとM&Aによる新規事業などを始めた企業には要注意である。顧客というものはそこに自らが欲するものを満たしてくれる価値創造があるからお客様でありつづけてくれるのである。ところが、自らが欲しないものを押し付けられようとしたときに拒絶反応を起こすことを企業は忘れていけない。
新興市場に上場している企業のビジネス戦略を見ていると、どう考えてもコアビジネスではないものに手を出しているとしか思えないケースが散見されて仕方がない。B2CのビジネスでCの部分が一見重複しているように見えるが、実は属性が異なる顧客で構成されえている事業をいくつ積み上げてもシナジーは生まれないのではないだろうか。筆者の杞憂に終わればいいが、ノンコアがコアを潰すことになりはしないかと心配である。ネットバブル時にノンコアがコアを潰しかけたが、見事にコアビジネスへの回帰を成し遂げた企業がある。2000年3月に株価が暴落して「光ショック」なる代名詞をつけられた光通信を挙げて締めくくりとしておきたい。
東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com |