東京証券取引所の少数特定者持株数の上場廃止基準が早ければ来年1月から現
行の80%超から75%超に下がることにより、該当する企業は株主分布の見直し
のため株式の売出しも考えられ需給悪化懸念があるとのことです。この上場廃
止基準の変更以上に大きな影響を市場に与えると思われるのが、東京証券取引
所が来年秋以降、東証TOPIXの算出にあたり導入する「浮動株指数」です。現
行TOPIXの個別企業のウェイトは、それぞれの会社の発行済全株式数と株価を
掛けて算出した時価総額をベースに決まっています。これが変更後は浮動株数
だけを株価と掛けた時価総額に基づいて決められることになります。その結果
、親子上場の子会社など浮動株が少ない企業は、浮動株指数におけるウェイト
が大きく下がることになります。
東京証券取引所の資料を引用して関連する用語の定義と導入スケジュールを紹
介します。
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用語の定義
・浮動株指数:各銘柄の上場株式数ではなく、各銘柄の浮動株数を反映する株
価指数。
・浮動株数=上場株式数−固定株数
・浮動株比率=浮動株数÷上場株式数
・浮動株:実際に市場で売買される可能性の高い株式。上場株式から、大株主
の保有株など市場で売買される可能性が低い固定的所有株を除いたもの
・固定的所有株(以下固定株数):大株主上位10位までの持株、役員保有及び
自己株。ただし投信、決済期間など固定的所有とは見なし難いものは固定株か
ら除く
運用
・現行のTOPIXを段階的に浮動株指数基準に変更
・移行は2005年10月末、06年2月末、06年6月末の三段階で行う。
・現在の算出方式によるTOPIXは、旧TOPIXとして算出、公表を継続
・来年4月末から浮動株基準最終形に移行した場合の、各銘柄の浮動株指数ベ
ースのウェイトとこれに基づいて計算した暫定TOPIXを公表
・浮動株比率の定期見直し:年1回
*これらは公表済の実施案で今後の変更される可能性があります。
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現行TOPIX算出の際の基礎となる個別企業の時価総額は、(上場株式数×株価
)ですが、浮動株指数の場合の時価総額は(浮動株×株価)となります。従っ
て浮動株が少ない企業、すなわち大株主上位10人および役員の持ち株比率が高
い企業ほど、新しい指数においてはそのウェイトが低くなります。親子上場の
子会社は親会社だけで50%以上保有しているので、新指数では基準時価総額が
半分以下になります。また創業から短期間でIPO、東証まで短期間で上場した
企業は創業者、その親族、役員の持ち株比率が非常に高い場合が多く、やはり
基準時価総額は少なくなります。
証券会社や金融情報会社の資料によれば、浮動株指数導入時にインデックス投
資家による売需要の大きい企業として銀行系準大手証券、電鉄系テーマパーク
運営会社、流通大手子会社のコンビニ、大手携帯電話会社、情報・金融コング
ロマリット傘下のポータルサイト最大手会社、政府保有比率の高い鉄道会社な
どが挙がっています。逆に浮動株比率が非常に高いため現行の指数よりウェイ
トが高くなり、買需要が出る企業として中堅製薬会社、中堅電力会社、財閥系
損保、破綻後外資により再生され最近上場した銀行などが挙げられています。
浮動株指数を導入する理由は、現行のインデックスには時価総額は大きいもの
の浮動株比率の極端に少ない会社がTOPIXに新たに含まれた場合、インデック
ス投資家はこれを買おうとしますが、市場に出回る浮動株が少ないため需給が
逼迫し株価が急騰するという弊害があるからです。東証が浮動株指数の導入検
討を表明したのは昨年11月ですが、同年10月1日には分割・新設された東急建
設が東証に新規上場しTOPIXに組み入れられるということで、インデックス投
資家の買い(?)と、それを期待した個人の買いが殺到したため株価が急騰し
ました。株価は上場初日終値は487円、11月4日に終値1,682円まで上昇、その
後は下がりつづけ現在289円(11/22終値)です。こうした問題点を受けて既に
海外の主要インデックスは浮動株指数に移行しています。
この浮動株指数への移行の株式市場への影響を最小限に抑えるため、東証は導
入を来年秋から三回に分けて行う予定です。一方企業側でも、親子上場の親会
社の持株放出、持合解消などの動きが出るかもしれません。読者の関心の高い
新興成長企業においては、創業社長の持株比率が注目されます。新興市場から
東証へ昇格の過程で売出し、立会外分売、ブロック取引などで少しずつ創業者
の持株は減っていくのが一般的な傾向ですが、一方で経営権を維持するために
、創業者が高い保有比率を維持したままの会社もあります。通常東証一部昇格
の際にはインデックス投資家の買いにより需給がタイトになり株価上昇、時総
額拡大が期待されます。しかし今後はそれを期待するには浮動株比率を高めて
おくことが重要になります。
創業者が経営権維持よりも自ら世に送り出した企業の時価総額の成長を願うな
らば、株式の放出を一層進めていく必要があると言えます。社長の地位を維持
するには、株式保有でなく自らの経営力を評価されて投資家から委託されるし
かなくなります。経営力を信認されないならば、別な優れた経営者に地位を譲
ることになるでしょう。反対に権力に固執して株式保有を続けるオーナーの企
業には業績と時価総額の成長があまり期待できない、と言えるのではないでし
ょうか。
株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史
(CFA協会認定証券アナリスト)