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編集長のジャストフィーリング 〜企業再生ファンドと銀行の不良債権処理〜
  東京IPO編集長 西堀敬

「企業再生ファンド」という言葉を聞いて、まず最初に浮かぶ代名詞は「ハゲタカ」ではないだろうか。今年2月に再上場を果たした新生銀行(旧:日本長期信用銀行)も米投資ファンドのリップルウッド・ホールディングスが大株主として投資をしていたことは読者の皆様も記憶に新しいであろう。

読者イメージとしては、立ち行かなくなった事業を安く買い叩いて高値で売る、のが企業再生ファンドではないだろうか。企業再生のプロセスを簡単に説明すると、

@投資対象となる企業は赤字となる一方で多額の銀行債務に苦しむ
A民事再生もしくは法的整理のプロセスに入る
Bスポンサーとなる企業再生ファンドは債務カットに動く
C多額の債権も持っていた銀行が債権放棄を決める
D銀行が赤字になり自己資本不足に陥る
E政府が銀行に出資を行い、銀行の自己資本を維持する
F間接的に国民の税金もしくは国民の借金である国債負担が増える

という流れがメディアで紹介されて、血税が回り回って企業再生ファンドの利益に貢献するような説明がなされている。

ここで注意すべきは、日本長期信用銀行のような銀行と事業会社の場合は再生するにも事情が大きく異なるということだ。銀行の債務、すなわち預金は全額政府保証が付いており、破綻した場合は全額政府が支払わなければいけない。つまり銀行の借金は最終的にはすべて政府が肩代わりするということになる。ところが、事業会社の債務はほとんどの場合は、銀行と取引先(仕入先)に限定され、一般の個人には影響を及ぼさない。従って、事業会社の破綻の影響は第一義的には銀行に及び、銀行の自己資本を大きく毀損することになる。

今回、UFJ銀行の不良債権を一気に片付けるべく金融庁が動いたのは、不良債権そのものをなくすことを目的としたわけではないと筆者は考える。来年からペイオフが始まるが、もしUFJ銀行がその直後に債務超過になって破綻するようなことがあれば、国民の預金は守られない可能性が出てくる。UFJ銀行の不良債権の対象となっている企業はセブンシスターズと呼ばれているらしいが、それらの企業をハゲタカに安価なバリューで譲渡したとしても、UFJ銀行そのものが破綻することに比べれば、政府にしてみれば安くつくとの判断があるのではないだろうか。

一方の企業再生ファンドであるが、企業再生の現場はドロドロした世界で、お金でけりがつく問題だけではない。もし、お金だけの問題であれば、日本の大手銀行はこれだけ多くの不良債権を抱えずに済んだはずである。筆者も人生の中において、銀行がお金だけでなく人材も投入して支援を行った企業の財務部門に籍を置いた経験があり、企業を立ち直させるのには相当の試練が必要なことは重々承知している。その意味において、銀行が企業再生に乗り出しても成功しなかった案件が企業再生ファンドの対象になっていると言ってもいいだろう。端的に言えば、銀行が主導して再生することをギブアップした企業群と言い換えることも出来る。

ハゲタカと呼ばれようとも、ファンドの運営者は投資家の資金を預かって運用しているわけである。政府は国民のお金を、ファンドは投資家のお金を投入するわけであるが、どちらが預かっているお金に対する責任感が強いのか。その答えは筆者が言わずとも読者は一致した見解をお持ちだろう。IPOの世界もまったく同じであり、増資により株主から預かった資金の重要性の認識の程度によってその企業の評価が決まると言ってもいいだろう。


東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com

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