先週、大手メガバンクの元副頭取が逮捕されるニュースがメディアで大きく取り上げられた。ここのところ大手企業が株主や一般の顧客を裏切るような行為が続発している。読者が株式投資を行う際に企業を選別する基準として、企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)よりも成長性に視点を置くべきだと7月26日のコラムで書いたが、この一連の不祥事を見ていると結果として成長性をなくした成熟産業の企業に問題が多発しているのではないだろうか。
新興市場に上場している企業群は、上場審査を経験してから間もない企業も多いことに加えて、経営者もオーナーが多いため、上場時に取引所や主幹事証券会社から耳にタコが出来るくらいにコンプライアンスや社会的責任について聞かされているはずである。従って、経営者は、法律違反を行えばどのような結果が待ち受けているのかくらいは承知しているはずであり、社員も含めてそのリスクに関する認識は高いと思われる。
先週のニュースで、大手企業のサラリーマン諸氏におかれては、明日はわが身かもしれないと思われた方もいらっしゃるのではないだろうか。誰もが知っている大手企業でこのような不祥事が起こる背景を筆者なりに考えてみると、経営のトップに自らが身を置いている組織が上場企業であることが頭の中から消えているのではないだろうかと思う。
新規上場する企業は、社内で上場の意義やインサイダー取引に関する講習会が開かれ、経営者と社員のすべてが完全に理解しているかどうかはわからないが自社が上場企業になることを認識する機会は多い。ところが筆者の経験からしても、社会人一年生の最初から上場企業に入社した人々は、所属する会社が上場企業であることを認識する機会はほとんどない。上場企業だから入社したという人は多いかもしれないが、上場企業とはなんぞや、ということを考える人はほとんど居ないだろうし、会社も新入社員研修でそんなプログラムを設けたりしないはずである。
新入社員から経営のトップまで、仕事をしている人のすべてがサラリーマンの組織においては、いつの間にかサラリーマンのゴールが経営陣に名を連ねることになっている可能性が高い。そして経営陣になってしまうと、ゴール設定がなくなり、いまの企業を存続させる事だけがゴールになってしまっていたのではないかと考える。自らの行動が株主や投資家はおろか、会社や社員すらも守れなくなるような結果に発展するとは思いもよらなかったはずだ。今回のことを契機に、サラリーマンが経営する企業にお勤めの諸氏は、トップまで登りつめる企業戦士が「社会の論理」よりも「会社の論理」を優先するがために自らが守ろうとしている企業まで滅ぼしかねないことを再認識すべきであろう。
東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com
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