今、企業のIR(インベスター・リレーションズ)活動がにわかに見直されているような気がする。相次ぐ大企業の不祥事、ネット証券の台頭、個人投資家の復活、IPO企業数の増加、証券取引所間の競争など、ここ数年で私たち資本市場を取り巻く環境は大きく変わった。こうした現象は、近年、活発化をみせる企業IR活動と無縁のものではないだろう。特に、最近は、大企業でも従前からの機関投資家向けのIR活動だけではなく個人投資家向けのIR活動に力が入ってきているという。7年前に、個人投資家向けのIRとアナリスト活動を標榜して独立した小生にとっては好ましい動きではある。
しかし、実際のところ企業にとっても投資家にとっても本当の意味で企業IR活動が正しく認識されているかというと少し首を傾げざるを得ない。企業IRは、言うまでもなく企業と投資家を結ぶ重要な役割を担っている接点である。この接点が正しく機能しなければ、企業、投資家双方に誤解が生まれ、結果として当該企業ばかりか証券市場全体の信頼性を失うことにもなりかねない。私が考えるにこれからの企業IRは、量的な規模に加え、質的な面からも企業、投資家双方が互いに研鑽しあって構築していく極めて大切な時期に入ったと考えている。
思うに、今の世の中は情報が溢れすぎて本物を知る機会が以前に比べはるかに取得することが難しくなったような気がする。投資情報ひとつとってみてもインターネットを叩けば、確かに投資に関する情報は、たくさん出てくるが、どの情報に信憑性があるのかは教えてはくれない。投資情報に対するアクセスは、以前よりはるかに簡単になったが、物事の真贋を見極めるのは、かえって難しくなったような気がする。企業IRも例外ではない。以前に比較して、量的には拡大しているが質的な面はどうだろうか。実は、企業IRを正しく知ることは、個人投資家にとっても投資パフォーマンスに直結する極めて重要なことなのである。ものに限らず情報においても、にせものが跋扈する今日この頃、今の時代ほど、本物が求められている時代はないのではないだろうか。
私自身、企業IRの研究を始めてからはや13年の歳月が経とうとしている。この間、常に現場に立つことを原則として、株式市場、とりわけ株価と企業IR活動の実践の関係に焦点をあて、分析研究を進めてきた。「企業にとって有効なIR活動とはどういうものか」、「投資家が期待する企業のIR姿勢とは何か」、「企業IR活動は当該企業にどのような影響を与えていくのか」、こうした疑問を明らかにしていくことは学術的にもかなり意義深いことのように思われる。本年のコラムにおいては、活発化する企業IRにスポットを当て、私たちに身近になってきた企業IRの本質に迫り、本物の企業IRとはどういうものなのかということをテーマにこれまでの研究成果を踏まえて皆さんと一緒に考え分かりやすく解説して進めていきたいと思う。
株式会社KCR総研 代表取締役 金田洋次郎
(証券アナリスト・IRコンサルタント)
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