証券会社のアナリストは、自らがカバーをする会社については、株価格付けを付与し
ています。
大まかに分けると、格付けは、「買い」、「中立」、「売り」の3段階となります。
アナリストのレーティングは、「買い」に偏りやすいことが、知られています。
最近の日本株市場では、「買い」が約4割、「中立」が約5割、「売り」は約1割という分布になっています。
この割合は、以前とあまり変わっていません。
つまり、アナリストの多くは、昔も今も、「買い」と「中立」をほぼ半々につけていることになります。
「売り」の格付けがこれほど少ないのには理由があるのでしょう。
アナリストは、担当企業に対して、取材を頻繁に行っています。
「売り」の判断を公にすると、担当企業への取材が困難になる場合があると聞きます。
企業の担当者も人の子ですから、「売り」の判断をしている「敵対的な」アナリストに対してスモールミーティングや事業戦略説明会から排除したくなるという気持ちはわからなくはありません。
アナリストにとって、「売り」と「中立」と「買い」の判断を決める大きな要素はなんでしょうか。
株価ではないようです。
アナリストは、株価より、むしろ、企業の競争力や財務内容といったファンダメンタルズを重視する傾向が強いのです。
アナリストの仕事は、取材です。
取材したことを、プレゼンテーション資料にまとめ、上手で説得力のあるお話を投資家の前でしなければなりません。
これは、考えてみれば、大変な仕事です。
中には、思い切り反論をふっかけてくる機関投資家のアナリストもいるでしょう。
中には、鋭いつっこみをするファンドマネージャーもいるでしょう。
説明しやすく、説得力を持ちやすいお話というものは、構造的な要因です。
シェアが高い背景、業界の勢力地図、そして顧客との力関係、また、長期的な業界のトレンド、構造変化などをアナリストは上手に説明します。
ですから、アナリストは、
構造的に優れているもの、財務内容の優れたもの、シェアの高いもの、競争力のあるものを「買い」にする傾向が強いのです。
逆に、シェアが低い企業、財務内容の悪い企業、景気の変動に対して大きな影響を受けざるを得ない企業などは、恒常的に「中立」や「売り」になりやすいのです。
10%しかない「売り」をありがたく頂いた企業は、極めて財務内容の悪い、評判の悪い企業ということになります。
たとえば、好財務のトヨタは「買い」ですが財務が脆弱な三菱自動車は「売り」、電線では、シェアトップの住友電工は「買い」ですが、財務基盤に劣る古河電工は「売り」といった判断になりがちです。
ですから、アナリストの投資格付けを見るとき、
「買い」は、競争力の比較的高い企業群、
「中立」は、競争力の比較的低い企業群、
「売り」は、財務内容が脆弱な企業群という見方をしていいと思います。
もちろん、以上のような、ぎちぎちの構造論で、すべてのアナリストが格付けをつけているわけではありません。
中には、株価やPERなどのバリエーションをしっかり吟味している優秀なセルサイド・アナリストも多数いらっしゃいます。
ただし、一貫性のある主張をしようと思えば、「この企業は買いです。なぜならば、
競争力が高く、成長性が高いからです」と主張するのが最も論理的に自然です。
ところが、おもしろいもので、論理的に最も説得力のある事柄は、すでに株価に織り込まれているのです。
説明のしやすい、論理的にもっともな主張は、それが本源的なものであればあるほど、株価には織り込まれているのです。
株価格付けがなかなか当たらないという理由の一旦は、株価がアナリストの論理性を内包している点にあります。
むしろ、すべての人が駄目だという財務内容が極めて脆弱な銘柄の中に、景気の回復局面で急騰する銘柄が多数含まれているのです。
説得力のある意見ほど、株価には織り込まれているのだと冷静に判断することは、この世界で生きのびるためには、大切な条件です。
山本 潤
ゆっくり考え ゆったり投資
〜スロー・インベストメント〜
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