この2週間くらいの間に、偶然にもアナリスト(=セルサイドの企業アナリスト)についてほぼ同じ内容の批判を3人の方から指摘された。一人は外資系証券の元調査部長、一人はベンチャー企業のインキュベーターの方、そしてもう一人はIRコンサルタントの方。
その内容を纏めてみると次のようなものだ。
「アナリストの給料は何故高いのか。アナリストが生み出している価値とは一体全体なんであるのか。機関投資家は高いリターンを実現することが価値創造になっているが、アナリストは果たしてパフォーマンスに貢献しているのか。殆ど推奨銘柄が当たっていないアナリストがどうして日経金融人気ランキングの上位に居るのか。歌手やタレントだったら人気そのものが評価のバロメーターになるのは分かるが、何故、人気ランキングがアナリストの評価バロメーターなのか。一体全体、何の価値を生み出しているか分からない連中が何千万円、場合によっては億円の報酬がもらえるのか」
こうした意見はどれも至極尤もである。しかし、私がこうしたことを言われるのはかなり筋違いである(ご三方も、明らかに上述の対象となるような人に対しては言わないのかもしれないが)。何故なら、1)身の丈を上回るような高い給料は貰ったことがない、2)買い推奨銘柄のパフォーマンスは圧倒的に高かったはずだ、3)レポート作成などのプロダクティビティも高かった、4)他者の評価は分からないが、自分では今まで誰も考えなかった投資アイディアや業界分析の手法を幾つも提案したつもりである、5)現在、「ティー・アイ・ダヴリュ」という会社で目指しているのは従来とは違ったアナリストの立脚点(=足場)を構築しアナリストの可能性を広げてゆくためである。
本題に戻るが、「アナリストが創造している価値は何であるのか」。本来、セルサイドのリサーチアナリストに求められるのは、@業界・企業の分析、A企業業績の予想、B企業価値のバリュエーション並びに総合的判断としての投資オピニオン(株価レーティング)の提供、である。したがって、アナリストの創造する価値評価とは本来的には、1)産業・企業に対する知識並びに分析・考察といった知的作業の質と量、2)企業業績の予想に対する確からしさ、3)投資オピニオンの確からしさとそのパフォーマンス、にあるべきである。
しかし、現実的には幾つかの構造的な要因によって大きく歪められている。
第一は、アナリストが証券会社の営業フロントに居ることである。営業フロントに居るということは、極端に言えばアナリストの投資オピニオンが当たらなくても、実際はどんなに阿呆でも収益をあげさえすれば評価されるということである。アナリストの人気ランキングは、アナリストの本来的な能力を示しているものではない。しかしながら、営業能力(=客をどれだけ引っ張って来られるか、収益をあげられるか)を表している。収益に貢献したものに報酬を多く払うことが“是”であるならば、オピニオンの当たり外れは関係なくなる。
第二に、機関投資家(に限らず、日本人全般に言えることであるが)が情報や知的労働に対して十分な対価を払わないことである。機関投資家が対価を支払うのは、IRミーティングの設定や、同行取材、電話などの細やかなサービス、究極的には接待、に対してである。気が付けばアナリストの仕事は投資家サポート・サービスが中心になっている。
何故、機関投資家は知的労働に対して十分な対価を支払わないのか?機関投資家の答えは単純である。アナリストの意見に価値がないからだと。しかし、そうした状況を作っているのは機関投資家自らである。アナリストの業務が顧客サポート・サービスに傾倒する中で、投資オピニオンで勝負するアナリストがどんどん居なくなっているだけなのである。本質的には、機関投資家がプロフェッショナルでないことが一番の問題である。もちろん、ファンドマネージャーの殆どは与えられた環境の中では懸命に業務を行っている。プロのサラリーマンとして。与えられた環境とは、それは資金を集めることを目的に作られた耳障りの良い(CSR、環境、コーポレートガバナンス、低位株、配当重視、等々)商品を会社の運用方針という枠内で粛々と運用することである。会社の方針通りにやっていれば、結果は出なくても給料は貰える、少なくともクビにはならない。増してや金返せと言われることもない。
大きく脱線するが、何故、戦後60年も経って日本人は戦争責任を未だに中国や韓国に追及されなければならないのか?答えは簡単である。日本人の一人一人の中に反省がないからである。軍事政権の下で民衆は踊らされていただけであり、自らも被害者の一人である。反対すれば粛清を受けるだけに致し方がなかった、と全体論の中に個人の責任を転嫁し、呵責からすらも逃れている。それがアジアの人々から見て許せないのだ。
話を戻すが、如何なる理由があったとしても結果に対する責任を負うのがプロフェッショナルである。企業経営者はもちろんであるが、ファンドマネージャヤー、アナリストにも同様の志が求められるのではないだろうか?それであってこそ高い報酬を得られるのだ。
さて、第三の要因であるが、アナリストを評価する統計的な環境が日本では十分に整備されていないことが大きな要因である。
米国ではスターマイン社による業績予想の確からしさを評価するアナリストの格付けサービスが浸透している。アナリストによる業績予想の実績を評価し、アナリストを1ツ星から5ツ星まで格付けする。その結果は、米ヤフー・ファイナンスの「アナリスト・パフォーマンス・センター」に掲載され「アナリスト別」「企業別」「調査会社別」で全ての投資家が見ることができるようになっている(詳細については、大和IR発行の「IRの話題」2004/3/5 浸透する米スターマインのアプローチ、をご覧下さい)。
日本でも機関投資家によっては会社内部でセルサイドのアナリストのパフォーマンス評価を行っている。富国生命ではアナリストのBUY、SELLレーティングの対TOPIX相対評価を求めており、その結果に基づく、アナリストの選別も行っている。
アナリストの評価が人気ランキングだけという歪な構造が、アナリストの本来的な価値創造活動を阻んでいると同時に、投資家のパフォーマンスにも悪影響を及ぼしていると想像するには難くない。
日本の資本市場の発展のためには、機関投資家、証券会社のスタンスを変えてゆく必要があり、まずは様々なアナリストの評価手法が実現されることが近道のように思われる。これを業界内の誰かが着手してくれることを切に祈って止まない。どうしても誰もやらないというのであればその時は弊社で手懸けるしかない。アナリストを現在の構造(=顧客サポート業)から救い出すことは弊社に課せられた使命であるからだ。
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株式会社ティー・アイ・ダヴリュジェネラルパートナー 藤根靖晃
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