新入社員は毎日掃除から仕事が始まる。そんな会社は世の中には珍しくないかもしれないが、今日ご紹介するグリーンホスピタルサプライの掃除は紙屑を集めたり掃除機をかけたりする程度ではない。毎週月曜日は7時30分から社長も含めた全社員で会社の掃除を行い、トイレ掃除は素手で行うというほど徹底している。なぜそこまでこだわるのか?
それは当社のビジネスが病院を経営する「お医者様」がお客様だということに起因している。「お医者様」は職業上、精神的、肉体的に極限まで追い詰められながら患者の治療に対応しており、自分達も「お医者様」の極限状態への理解ができないと一緒に仕事ができないということからきている。そんな社員教育に熱心な古川社長に当社のビジネスの成り立ちと現状そして将来についてお話をお伺いした。
冒頭にも書いたとおり、当社の社員教育の徹底ぶりは筆者も大変驚いた。もう少し続けると、毎年6回社員の金剛山研修が行われる。2時間あまり大半が階段状となっている金剛山を登って夕方の17時に山頂研修所に集合。研修所では最初の2時間はお酒が入る宴席から始まり、その後古川社長が講師となって3時間の研修となる。医師のお客様に接するにはたとえ酒が入っていても自らを失うようなことがあってはいけないと宴席後であっても参加者が脱いだスリッパすら乱れないことを社員に教え込むほど徹底している。
このような猛烈な精神論と根性論を社員に植え込む古川社長とはどのような人物なのだろうか。小学生の時に実の母、父を続けて亡くし、兄弟3人の長男として義母に育てられた。岡山は倉敷の高校を卒業するや、大阪の西本産業という会社に就職している。社会人としてのスタートは、同社が扱っていた事務用スチール家具の倉庫管理であった。1年4ヶ月間過ぎたところで事務用家具の修理を行う仕事に就き、自分なりにプロの域に達したときに京都に転勤となった。ある日、京都市役所の秘書課へ椅子のキャスター修理に出かけているときに、宝が池にある国際会議場の用度調達の話が持ち上がった。2ヶ月間で13億円の調達であり、時間と金額を考えれば不可能と思われたが、入札に参加した16社の中から1社で12.6億円を落札した。京都の老舗の大丸、高島屋などの5社にお願いしてなんとか納期を間に合わせることができた。この成功体験が今日の当社のビジネスモデルであるトータルパックシステムの原形となっている。
当社の顧客価値創造から説明していこう。一言でいえば、病院施設創りのプロ集団である。売上の55%を占めるトータルパックシステム事業とは、医療機関等の新設、移転新築及び増改築、医療機器の購入ニーズに対して、企画運営・医療設備コンサルティング、医療機器・医療設備等の販売及びリース、建築工事、その他の業務を一括して受注し、プロジェクトを施行することにある。まさしく京都市役所の用度調達の実績が生きているビジネスである。
日本には対象となる医療機関等が約9,200件程度存在する。年間350件くらいが移設や増改築を行うが、当社の営業の対象となる200ベッド以上を保有する病院は100件程度とみている。標準的な案件は平均の受注金額が5億円程度(医療機器・医療設備のみで建築費用は含まない)で、受注から完工まで3年程度を必要とし、案件ごとに専任チームを組成して対応している。
全国の1,196病院を対象に調査したところ、1965年〜1990年に建てられたものが8割を占めており、医療機関の施設は30年を目安に老朽化し建て直しとなるため、順次建替えに時期を迎えている。また、法律改正で入院患者一人当たりのベッドのスペースが4.3uから6.4uにアップされたこともあり、増改築の動きが加速する要因にもなっている。
次に当社の2番目に大きな売上セグメントとなっているメディカルサプライ事業は、当社がトータルパックシステム事業で新設・移転・増改築を行った医療機関に対する診療材料・医療用消耗品等の販売を行っている。医療機関を対象にしたビジネスは医師に対する信用のビジネスでもあり、新設・増改築のすべてを任されることにより、日常的なサプライ用品の販売という継続ビジネスにも深く入り込むことができるのである。
最後に、まだ初めて間もない、ヘルスケア事業であるが、こちらは二つの分野に分かれている。ひとつは調剤薬局の運営である。1昨年前に医薬分業比率が50%を超えてきていることに加えて、病院の門前に位置する薬局で60%超が調剤されていることから、当社では関係が強固な病院の門前で大型の調剤薬局の店舗展開とM&Aによりスケールメリットを追求している。
もうひとつは、介護付有料老人ホームの経営である。有力医療法人グループとの共同事業として病院施設に隣接した場所に施設を設立し、施設運営は医療法人が責任を持ち、経営は当社が受け持つ仕組みとなっている。施設の規模は自前で厨房をもって食事のサービスを提供できる150ベッド以上の大型施設を展開することにより、年金の範囲内での費用負担という低価格で高品質介護サービスを開発提供している。すでに昨年の4月に第一号が兵庫県尼崎市で開業済であり、今年も第2号が6月に開業予定となっている。現在第5号まで目途がついており、約120億円の投資になるが1,000ベッドの老人ホームで年間45億円前後の売上が見込まれている。それに対する先行投資でバランスシートに土地が35億円計上されているが、土地建物で100億円規模になったらオフバランス化も視野に入れ検討する予定としている。
次に株主価値創造について触れておきたい。当社はまだ前期決算を発表していないが、古川社長の自信に満ち溢れたお話を聞くにつけ、公表されている前期業績予想数値の達成は間違いないと確信した。筆者の私見であるが、今後数年間は売上げの伸びで15〜20%、経常利益率は4%前後で推移するものと考えられる。今後の当社の成長を測るポイントはヘルスケア事業における介護付有料老人ホームであるとみる。ややもすると高齢者を対象としたビジネスは税金ビジネスと言われて、政府の方針変更で経営も左右されるのであるが、当社は医療法人との連携という新しいビジネスモデルの構築を急いでいる。病院経営もが株式会社化されようとしている今日において医療施設創りのプロ集団が、医療のビジネス化にチャレンジしているとも言えよう。
グリーンホスピタルサプライホームページ: http://www.ghs-inc.co.jp/
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com
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