5月、若葉の季節ということで、若い企業のための株式市場であるグリーンシート(以下GR)についてのお話です。GRは証券取引法上の市場である証券取引所が運営する株式市場(東証・JASDAQ・大証等)に上場していない企業を対象とし、日本証券業協会がその規則上の証券市場として運営しています。参加企業数は着実に拡大しており将来のIPO候補にいち早く投資する貴重な機会であると思いますが、登録企業の業績変動の大きい点と、投資家に十分認知されておらず流動性が低いというハイリスクの性格があります。それだけに市場参加者間の情報格差が大きく、思わぬ投資のチャンスが埋もれているハイリスク・ハイリターンの市場と言えます。
GRに登録し売買対象となっている銘柄は67社です(4月末時点)。さらに新規募集のプロセスにある会社が9社、GRを卒業して上場を果した企業が4社ある一方で、GR登録したものの取引廃止となった銘柄がこれまでに20社ほどあります。この取引廃止銘柄の多さが「GRはリスクが高い」というイメージが生んでいる点は否めません。しかし廃止の理由と廃止された場合の状況を見るとやや印象が変わります。大手企業の資本参加等により会社の経営方針が変更され株式の公開を止めた会社が13社で、残りが経営悪化により廃止となっています。会社都合による廃止の場合は全株主の同意を得て廃止が規則となっており、全株主の同意が難しい場合は時価で会社等が買取りをすることになりますので、株券が紙切れになることはありません。
順序が逆になりますが、GRに登録し株式公開をするにあたっては、取扱証券会社の審査を受けています。そして通常登録後、資金調達と一般株主作りと二つを目的として株式の募集・売り出しを行います。
これまでの募集・売り出しによる調達の実績は以下のようになっています。99年の第1号からこれまで89社が調達を行い、約55億円が投資家から集められています。1社平均で61百万円となります。2回以上の調達を行った会社が8社、もっとも多くの資金を集めた会社は1回で250百万円、もっとも少ない会社は9.9百万円です。
登録直後の公募に当たっては会社説明会を実施しており、GR銘柄売買のための口座を開設している個人投資家であれば参加可能です。新興市場へのIPO時の会社説明会は証券業界関係者しか参加できません。個人投資家は目論見書だけを頼りに投資するわけですが、その点GRは企業経営者の生の説明を聞いて投資判断ができる点は個人にとって有難いと思います。
流通市場での売買ですが、昨年1年間でみると月間売買代金でおよそ30百万円〜40百万円、銘柄数の増加もあり増加傾向にあります。今年1月には70百万円以上の売買が行われています。昨年1月は約15百万円程度でしたから大きな成長といえます。ちなみに4月28日は売買が行われたのは9銘柄、売買高201株、売買代金は6,198千円でした。4月は5百万円以上の売買代金の日がかなりあったようです。
登録銘柄で比較的売買が活発である銘柄をひとつ参考に見てみます。オンライン証券業を営み、GR銘柄を扱う証券のひとつであるジェット証券、登録からほぼ2年が経過しています。これまでに累計の出来高が654株、売買代金は約100百万円です。同社は2003年2月に募集を行い、85.5百万円を調達しています(発行価格は112,000円で5000株、5億円を募集し、最終的に855株の応募があり、会社は1株10万円で85.5百万円を調達)。その後流通市場での最高値は315,000円、直近の価格は221,000円(4/27)です。公募で買った人の資産は2倍になっています。創業以来5期連続の増収、第5期(16/3期)から経常黒字化しています。17/3期は売上高1,051百万円(前期比+26.4%)、経常利益137百万円(同27.7%)、当期純利益88百万円(同30.6%)。EPSは3,369.63円、実績ベースのPERは65倍です。同社は将来のIPO候補と思いますので、GR登録時の公募に応じて112,000円で購入していれば・・・。このような銘柄は、注意深く探せばいくつか見つけることができます。
この4月1日にはGRの大きな改革が実施されました。従来の市場区分が変更になっています。地域銘柄のリージョナルを廃止し、オーディナリーを新設しています。従来からの成長企業の区分であるエマージングの企業は、会社の公表した業績予想に対して実績が50%以下の未達成の場合などにオーディナリー区分に移すルールとなりました。
GRには新興市場へのIPOが近い段階の有力ベンチャー企業、まさに生まれたての企業、既に長い業歴を持つが経営の転換により改めて成長を目指すことにした中小企業など、さまざまなステージの企業が混在しており、投資家にとっては非常に分かりにくい市場であることは事実です。今回の改革は成長企業とそれ以外の区分を明確にする試みの第一歩と言えます。
さらに登録企業の情報開示ルールが強化されました。証券取引所市場の上場企業と同様に、TD−NETを通じた情報開示が義務化されました。TD−NETの開示を見ると市場が記載されていますが、東証やJQなどの表示に混ざってGRという表示が散見されます。
こうした改革はいずれも、投資家にとって市場のしくみをわかりやすいものにする、個々の企業の情報をわかりやすく提供するという前向きな改革ではあります。一方で登録企業にとってのコスト負担増につながる可能性があり、GRそのものが利用されなく危険性もはらんでいます。
株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史
(CFA協会認定証券アナリスト)
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