(訂正:前週のコラムでGR市場の月間売買高実績で、誤って低い数値をお伝えしまた。平成16年度は平均で月間2億2千万円の出来高がありました。お詫びして訂正いたします。)
今回は個人投資家にとってグリーンシート市場(以下GR)で投資をすること、企業がGRに登録することの意義を見てみます。
個人投資家にとってはアーリーステージにある未上場企業へ投資することで、将来大きなキャピタルゲインをえる可能性があります。またGRの特徴として投資家に地元企業・縁故先・取引先を応援するために投資してもらう、という点があります。GRで公募した企業の株主数は平均200人程度、最小で50人ほどです。こうした投資家の一人となって、企業を身近に感じ、応援していく、企業の成長を身近に見る機会ともいえます。さらにエンジェル税制によるメリットもあります。エマージング区分で創業10年未満の企業、オーディナリー区分の場合、創業10年未満で開発費に関する要件を満たす企業、それぞれの公募増資に応じた投資額分を、同一年度の株式譲渡益について課税繰り延べなどの優遇措置を受けることができます。
一方で、投資家はGRへの投資が、新興市場への投資よりはるかにリスクの大きいものであることは、あらかじめ十分覚悟しておく必要があります。GR銘柄については、投資先企業があっけなく破綻し損失を被る可能性があります。またそうした状況がおこりつつあることを知りうるための情報の不足。そうしたリスクを感じた場合や、投資家の都合による換金ニーズが発生した場合でも、容易に売買できない低流動性。先週、これまでの登録廃止企業の数が約20社と申し上げましたが、こうした点には重々注意が必要です。
登録する企業にとってはやはり直接金融による資金調達が一番大きな魅力です。GRの公募で数千万円から1億円程度の調達の可能性があります。一回の調達額が数千万円であれば、VCからの出資を受けるか、銀行借入のほうが良いのではないかと思うかもしれません。しかし中には、VCもなかなか出資に踏み切れないでいる状況で、GRを利用した公募をきっかけにVCの出資が相次いでいるという企業の例もあります。登録企業の1つで有機野菜を使ったカジュアルダイニング・レストラン「シェフズV」を展開する企業「ヒューリブ」があります。同社は現在都心一等地に6店舗を展開していますが、GRに登録し公募を行った時点ではまだ創業の1店を経営するだけでした。その一店で試食会を兼ねた会社説明会を行い、約30百万円を調達しました。その後VCからの出資が相次ぎ、GR公開から1年あまりでエクイティ160百万円と銀行借入180百万円で計340百万円を調達しました。それにより恵比寿、田園調布、丸ビル、横浜ランドマークタワーなどに順調に出店しています。
銀行借入についても、ある程度自己資本があり、自己資本比率が維持されることを要求されますし、依然として担保資産の提供、経営者の個人債務保証も必要です。何より借入金ですから当然利払いと返済が必要です。
調達以外の目的では、BtoCの企業であればGRへの登録を通じて個人株主=個人サポーター=個人ユーザーを増やすことは、本業の発展にもプラスとなります。
さらに登録をした企業には成長は目指しているものの、必ずしも早期の新興市場への上場を経営目標とはしていない企業もあります。そうした企業があえて、GRへの登録、公募、外部株主作り、そしてそれに伴う情報開示を行う目的としては、ガバナンスを強化していくための契機としてGRへの登録を行うというケースが見られるそうです。株式公開企業としてきちんとやっていきたい、地域の多くの人に支援してほしい、銀行との取引関係の変化を受け資本構成を考え直している、新規事業に投資するリスク資金を確保したい、など経営者の様々な思いがあるようです。
将来の新興市場への上場を考えた場合、GRへの登録がどういう意味を持つのかという点も気になります。GRへの登録、公募、流通市場での売買を通じて一般株主が数百人規模に拡大していきます。これが上場審査時における反社会的株主の有無の確認を難しくするというネガティブな意見もあるようです。一方でGRに登録していない上場予備軍の企業においても、株式の譲渡が行われ株主数が増えているケースはあります。GRでの株式売買に参加するには、投資家は本人確認の上で口座開設を行い、株券は全て保護預かりとなります。そして市場での売買はすべて記録されます。こうした点で反社会的勢力の介入する余地がむしろ少なく、上場前に株を多数の人に譲渡するにはよい制度であるという見方もあります。
最後になりますが、平成17年の金融庁の金融改革プログラムにおいて中小企業のための証券市場の整備が掲げられています。GRはまさにこの目標にかなうものとして成長が期待されます。GR取扱トップシェアのディーブレイン証券によれば、将来的には千〜2千の登録企業数を目指し、さらにGRを経由してマザーズ、ヘラクレス、JASDAQ等の新興市場や福証Qボード、名証セントレックス、札証アンビシャスなど地方市場への上場も推進していきたいとのことです。そのために個人投資家が株主として企業を応援するための市場という意義と、中期的なキャピタルゲインを狙うという二つの目的をいかに両立することができる環境を整備するかが重要と認識しているとのことです。GRの存在意義として企業をより身近に感じて投資家が応援していけるようにディスクロージャーなどIRを充実させ、さらに流動性を高めるためにマーケットメーク制度なども将来の検討材料のようです。皆さんも時にはIPOの一歩手前を行く、GRの若い企業群の様子を覗いてみてはいかがでしょうか。
株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史
(CFA協会認定証券アナリスト) |