今年のIPO市場も過去2年間の動きに相似してきた。そもそも1月と5月は日本特有の祝祭日の関係で株式市場が長期間にわたり休場となるため、プライシングのスケジュール上どうしてもIPOが減ってしまうのである。その間に溜まったエネルギーが一気にIPO銘柄に向かうと先週のような初値騰落率500%、600%というようなフェアバリューを逸したバリュエーションまで買い上げられる結果となってしまうのである。
先週の説明会の冒頭でもお話したが、この時期のIPO銘柄は業種やビジネスモデルに関係なく初値が高くなる傾向にあり、その後の株価の推移を見ると無残な状況である。数字で説明しておくと、昨年のIPOは175銘柄、初値騰落率で300%超は11社、先週末の株価で初値を維持しているのは12月にIPOした1社のみで他の10社は全滅となっている。
投資家がそんな水準まで買いにいかなければ痛手を被らないのであるが、発行体の企業のほうもそこそこの水準で初値がつくように努力されることを期待したい。
さて、今日の本題は、先週発表された大阪証券取引所のヘラクレス市場での新規上場申請の受付停止である。大証のホームページを見ると、下段の「大証からのお知らせ」の中にひっそりと掲載されている。すでに5月19日付の「ヘラクレス銘柄の売買集中時の株価情報配信及び約定処理について」というニュースリリースにてセカンダリー市場での注文・約定処理に混乱が出ていることは報じられている。
リリースを読むと、ヘラクレス市場の注文件数は2年前との比較において1日平均で約18倍になっているそうだ。実際の売買代金で今年の4月と昨年同月を比較すると約2.1倍に増加している。2年前の4月の売買代金が大証のホームページになかったので比較はできないが、2年前と言えば2003年の春であり、株式市場がやっと浮上し始めた時期である。ナスダックジャパン市場としてスタートしたヘラクレス市場はITバブル崩壊以降長年にわたる市場低迷の中で出来高は先細りすると見込んでいたのではなかろうか。
ヘラクレス市場が発行市場機能を担い始めたのは2002年の末であったが、2003年に入っても年間7件のIPO件数と日本の株式市場の好調さを尻目にナスダッジャパン当時の勢いは見られなかった。それが2004年には16社、今年もすでに16社のIPOの件数となり、東京事務所にヘラクレス本部を置き大証への新規上場を誘致する部隊の活動が実り始めた矢先の出来事で、まさに出端をくじかれた形となった。
日本のエクイティデリバティブ市場の先駆者として、世界的にもその存在感が高かっただけに、まさか売買システムでつまずくような失態が起ころうとは誰しも想像しえなかったことである。2005年3月決算説明資料を見ると、今期の売買システム投資は62億円、2006年1月・2月に稼動予定でキャパシティーは現在の7倍の注文量に対応できるとある。2年前の18倍に膨れ上がった注文量が今後どのように推移するのかをきっちりと見極めた上での投資であって欲しいのものだ。
東証の上場に関して「自主規制部門の分離」の議論が活発に行われているが、証券取引所とは株式の発行による企業の資金調達の場であり、企業にリスクマネーを供給するうえで止めてはいけない株式の流通市場であるという側面があることを取引所の運営者は忘れるべきではない。その意味において、今回の大阪証券取引所の発行市場機能停止は取引所としては片肺飛行どころか両肺ともに機能不全状態であるといえる。一日も早く健康体に戻って市場の活性化に貢献することを期待してやまない。
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com |