インターネット総合研究所(以下、IRI)と言えば、ネットバブル時代の1999年12月に東証マザーズに上場し、初値時価総額は7,000億円となり当時は時代の象徴のような存在であった。 その後のIRIの業績と株価の動向は読者の皆さんは良くご存知で筆者が説明するまでもなかろう。
IRIは昨年の8月に発表した決算で大きく変化してきていることが株式市場でも認知され株価は大きく戻した。まだ、確定はしていないが、前期の2005年6月期決算では連結ベースで黒字転換となることが会社の発表で確実となっている。とは言え、IRI本体はまだ赤字が続いている中で、一連の黒字化の動きを推進したのは、連結決算で利益貢献している子会社の経営を預かっている上場時には居なかったメンバーであった。
本日お話をお伺いしたのは、IRIグループの黒字化に大きく貢献したメンバーでもあり、この度、自身が社長として上場を実現したIRIユビテックの荻野社長である。
IRIユビテックの事業については後ほど説明するとして、まず荻野社長ご自身について触れておこう。
お会いしての第一声が、「当社は営業利益重視です。」との発言に面を食らった。キヤノンの技術者出身の社長だと言う先入観から、今日はどんな難しいインターネット技術の話が出るのかと思いながらおうかがいした筆者にとっては非常に新鮮であった。IRIが上場した直後のIR会社説明会では文系の筆者にはまったく理解できないIPネットワークの図が何十枚も続くスライドを説明されてうんざりした覚えがある。それに比べると、荻野社長のお話は至って明快である。
荻野社長の経歴は、大学院を終了した後にキヤノンに入社。光磁気ディスクの研究に携わり、その後光磁気ディスクの新規事業部、製品開発部、事業部と事業化するところまで担当した。光磁気ディスクの事業は、価格競争もあり事業判断で縮小する方向へと向かったそうだが、その後、研究所に戻らずに、興味のあったインターネット事業への取り組みを上司に進言する。
運良く担当役員の理解も得られてインターネット事業は認められたものの、本体での取り組みは事業免許の関係でできず、通信事業者の免許を持っていた子会社のファストネットに出向しての事業のスタートとなった。出向者3人で始めたISP事業は初年度から黒字を達成し、企業内起業で大成功を収めたのであった。そのお陰もあって、本社で管理職にもなっていない社員が子会社の取締役就任が決まり、その後に、本社における管理職への昇格が決まるほど事業推進への執着が強かったことが窺い知れる。
2000年に入り、ファストネットのISP事業の延長線上で係わりができたIPv6協議会とJPNICの仕事に専念するためにキヤノンを離れてIRIの執行役員となるが、インターネットシーアンドオーの社長が病となり、急遽、2000年7月に同社の代表取締役社長となる。その後、2002年9月にIRIの取締役となり、翌年の2003年9月にIRIの子会社である当社の代表取締役社長に就任した。IRIは2002年9月に荻野社長を含む取締役に就任した4人のメンバーが核となってIPネットワーク事業とIPプラットフォーム事業を推進し、子会社の黒字化を成し遂げていくのである。
少し前置きが長くなったが、IRIユビテックは、IRIグループにおいて「IPプラットフォーム事業」の中心を担っており、主な事業内容としてネットワークプラットフォームとなる「モノ作り」、次世代ネットワークに対応した新製品の企画・開発を行っている。
具体的な事業内容は、3分野に分かれている。当社の製品の特徴は端末とネットワーク技術の融合である。少し噛み砕くと、特定のOSの上で動くようなアプリケーションを開発・販売するのではなく、ソフトがハードに入って一体化しているような組み込み型ソフトの開発とそれを応用した製品の製造に強みを持っているといえる。
(1)映像事業
主にプロジェクターや薄型TVの映像を美しく投影するために重要な役割を果たしている映像エンジンシステムの開発を行っている。
製品イメージ ⇒ http://www.ubiteq.co.jp/solution/eizo.html
(2)画像事業
主にオフィスOA機器やコンビニ向け、金融向けのATMの中に組み込まれている各種モジュール機器とそれらを制御するためのソフトウェア開発を行っている。当社が得意としているのは、ある情報を機会に「読み取らせ」それが何であるかを「探知」する、センシング技術である。その技術を応用した製品としては、「個人IDカード偽造判定ユニット」「カードリーダー」「コイン検知機能付き両替機」などがある。
製品イメージ ⇒ http://www.ubiteq.co.jp/solution/gazo.html
(3)モバイル・ユビキタス事業
主に携帯電話などのモバイル機器の性能および性能評価を行っており、過去8年間で13メーカー、100機種以上の評価実績に基づくノウハウの蓄積と当社独自の評価シナリオ新機種の品質向上をサポートしている。
今後の同社の将来を占う上で重要なことは、荻野社長が就任するときに、IRIにあったユビキタス研究所を当社に引き継いでいることではないだろうか。荻野氏が社長に就任して2年間に取り組んだことは、1年目は内部統制の強化、2年目は既存事業の横展開と深掘り、であった。そして3年目に上場となったわけだが、話をお伺いしていると、当社の事業推進コンセプトであるユビキタス・テクノロジーを使った事業分野における本領発揮はユビキタス研究所を核としているモバイル・ユビキタス事業にありそうだ。当社の技術を使った製品が読者の皆さんが利用される日も近いと感じた。
企業の成長という側面においては、できるだけ早い時期に三桁の億円台まで持っていきたいそうだ。5年くらいはかかりますよね?と質問したところ、笑みを浮かべて首を横に振った荻野社長が印象的だった。
IRIユビテックHP → http://www.ubiteq.co.jp/
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com
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