今年も土用の丑の日が近づいてきた。この時期になるとどうしても鰻を食べたくなるのではなかろうか。新聞のチラシやスーパー、コンビニの店頭にこの時とばかりに「うなぎ」の文字が氾濫する。水を差すわけでもないが、鰻屋ご主人が「土用の丑の日に鰻を食べる必要は無い!なぜなら養殖物で仕込みもずいぶん前から準備しているので味が落ちている」と教えてくれたことがあった。
生物を食材として使う料理は、鮮度が落ちると美味しさが失われるのが当然であると誰もが考えるであろう。しかしながら我々が食する料理の素材はほとんどが冷凍物であることは周知の事実である。採れたての食材なんてほんんどないことを前提に美味しい、不味いの議論をしているのである。では、美味しさとは一体何なのか?って皆さん考えられたことはあるだろうか。
今日は、「美味しくて、安全で、安い」ふぐ料理を提供されている関門海の山形社長に「美味しさ」の秘訣について徹底的にお話をお伺いした。
関門海とは、事業内容を説明すると至ってシンプルで、とらふぐ料理専門店「玄品ふぐ」を直営とフランチャイズで経営する外食事業である。このふぐ専門チェーン店が目覚しい成長を遂げている現実の裏には人並みならぬ食材へのこだわりが存在しているのである。
ビジネスモデルや市場については後ほど触れるとして美味しさの源泉に迫ってみよう。
言葉を変えれば、関門海の特徴であり、強みである部分でもある。
まず、当社では人が美味しいと舌で感じる食材(当社の場合は「天然とらふぐ」)の成分分析を行っている。一方で自社で養殖するふぐの成分分析を行い、その成分の違いを調査している。そして天然ふぐの成分に近づけるべく、餌や水流、水温、水質、酸素濃度などの条件を設定し、とらふぐの味覚の変化、成長のスピードを研究して、天然とらふぐに近い味覚の成分を保有するように養殖を行うのである。
次なる秘訣は、旨味成分を向上させながら、長期間鮮度を維持したまま保存・輸送することを可能にした技術を保有していることだ。旨味の向上とは、鮮度・歯ごたえを保存することで、保存料などの健康を害する物質は使用していない。手法に関しては企業秘密であるが、商品の需給で価格が大きく動くというリスクを避けながら品質の高い食材を低価格で仕入れて保存することを可能にしている。
三番目の秘訣は、当社では研究開発室で人間が感じる味覚を様々な角度からデータ化する計測機器である味覚センサーやアミノ酸分析器等により食材の味覚について数値化・データ化している。よって店頭で使用する食材については成分分析を行い、旨味を客観的な指標にて計測し、味覚の向上、均一化、安定化に努めている。
最後の秘訣は、店舗で使用する野菜であるが、低農薬野菜に残留農薬等の有害物質を人体に無害な物質に変化させる中和技術を使って、より安全にお客様に提供しているのである。また、自社の研究室にて残留薬物がないかの検査も行っているのである。
話は前後するが、続いて関門海の沿革、ビジネスモデルの強みと今後の成長について説明していきたい。
まず沿革であるが、当社は現在の大株主である山口聖二氏が1980年に「てっちり1,980円」をキャッチフレーズにした「ふぐ半」を大阪府藤井寺市で開店し大ブレイクしたことが発端となる。その後、暖簾分けで拡大するも、屋号もバラバラで業績悪化となる。2000年に「美味で健康的な本物の美味しさを追求する研究開発活動を開始、2001年に社名を関門海に改名、2002年に屋号を「玄品ふぐ」に統一を行った。
ビジネスモデルの強みであるが、
(1)前述の養殖技術、長期保存技術等を利用して高品質な食材(とらふぐ)を年間を通して安価に仕入れることが可能となっている。
(2)熟練料理人を必要としない店舗オペレーションを実現。各店舗において調理を省力化するためにセントラルキッチンの整備と店舗厨房機器を開発しチェーン展開を可能にしている。
(3)結果として4,000円程度でふぐ料理のフルコースを味わえる非常にリーズナブルな価格設定を行っても、直営店舗の営業利益率30%を維持する効率的な運営を可能にしている。
次に市場についてであるが、当社の出店ペースはここ数年関東に集中している。その背景は、ふぐの消費量にある。関西と関東をの人口比率は1:2であるが、ふぐの消費量は3:1となっている。つまり大阪を中心とした関西エリアにはふぐ料理店が多いが、首都圏にはふぐ料理店そのものが少ないことにある。表現を変えると、関東エリアのふぐ料理の市場は現在の6倍は存在すると言っても過言ではないのである。当社は現在関東に41店舗の直営店を保有するが、山形社長は関東だけで200〜300店舗までは十分にチャンスがあると見ている。
最後に、読者の皆様にお伝えしておきたいことは、当社の売上は季節変動が大きく、1年間の利益のほとんどを第1四半期(12月〜2月)に稼いでしまうということだ。従って、このコラムを読んで最寄りのお店に行かれて閑散としているかもしれないが、当社においては梅雨時から夏場は出店や社員研修の時期で冬場への仕込み時期となっており、第3四半期の業績が悪くても期初の業績予想にはまったく影響がないことをご理解されておいたほうがいいだろう。
一応、筆者なりに当社の食材に対するこだわりと食材が美味しい秘訣についてご説明してきたが、きっと実際に食してみないことには読者の皆様のご理解も得にくいと思う。季節的には、「ふぐ」の季節ではないが、一年中変わらぬ美味しさを提供されている関門海のお店でたっぷりと時間を使ってふぐのコース料理を楽しめるのは今の季節だけかもしれない。是非、一度ご近所の関門海のお店を訪ねていただきたい。
関門海ホームページ: http://www.kanmonkai.co.jp/
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com
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