読者の皆さんの多くがインターネットを立ち上げるとYahoo!Japanのトップページが現れるのではないだろうか。その瞬間に皆さんのパソコンはYahoo!Japanのトップページを表示させるサーバーをめがけてアクセスするわけだ。誰しもが知っているようにYahoo!Japanは日本で一番アクセスが多いポータルサイトだが、アクセスにあまりストレスを感じたことはないのではなかろうか。
「ストレスを感じないアクセス」を実現しているのは、Yahoo!Japanではなくて、Yahoo!のサーバーを預かっているインターネットデータセンター(iDC)の技術である。このYahoo!のサーバーを預かって運用しているのが、8月3日に大証ヘラクレスに上場したブロードバンドタワー(以下BBT)である。(誤解を生じるといけないので先に述べておくが、Yahoo!はリスク管理上すべてのサーバーをひとつのiDCに預けているわけではない。)今回はBBTの大和田社長に当社の歴史、そして将来についてお話をお伺いした。
まず大和田社長とBBTの関わり当社の歴史について説明していこう。
遡ること5年半前の1999年12月。東京証券取引所に新設された新興株式市場マザーズにインターネット総合研究所(IRI)が上場した。当時、筆者はIRIの会社説明会に出席して事業についてお話を聞いてはみたが、資料はインターネット特有のネットワーク図が数十枚続くだけで、いったいこの会社は何で飯を食うのか?ということがよくわからなかった覚えがある。
当時、IRIの取締役だった大和田氏と藤原社長は、機関投資家に対して「iDC事業」を核として成長するというシナリオを何度も説明していたそうだ。とは言え、IRIは技術者集団で、iDCのような物理的なファシリティーを保有するビジネス展開は単独では難しいと感じていた。
IDC事業を推進するために、最初は米国でiDC事業者として一世を風靡していたエクソダス社との合弁事業で調印寸前までいったが、IRIの株主でもあるソフトバンクからグループ会社のGlobal Crossing(GC)社との合弁の話が出て、2000年2月にIRI11%、GC89%の比率で資本金25億円のグローバルセンター・ジャパンを設立した。
大和田氏は当社の副社長として経営に参画し4月から営業をスタートしたが、年末にはGC社はiDC事業子会社であるグローバル・センター社をエクソダス社に売却することになった。当社は、エクソダス社への営業譲渡、解散、GC保有株式のIRIでの引受けの選択を迫られた。直後にソフトバンクグループがGC社保有株式の38%を引き取り営業を継続することとなった。
その後1年が過ぎ、2002年年初には資本金の25億円をほぼ使い果たして、資金繰りに困ることになった。同年3月に10分の1減資で累損を一掃すると同時にIRIが10億円の増資を実行。そして実質的にIRIの子会社として再スタート切り、4月には社名をブロードバンドタワーに変更し現在の大和田社長体制が確立された。
続いて、当社の顧客価値創造について説明していこう。
当社の事業は売上の9割以上がiDC事業である。そのIDC事業のサービス内容とは
(1) スペースサービス:顧客のサーバーを設置するラック提供
(2) インターネット接続サービス:スペースサービス提供顧客に対してインターネットへの接続環境を提供
(3) 監視・運用サービス:お客様から預かるサーバー等の機器の状態確認、サーバ電源のオン・オフ作業を行うリモートハンドサービス、ネットワークに関する監視・運用・保守サービスを提供 等である。
当社は大手町と天王洲のデータセンターに1,800ラックを設置できるスペースを保有しており、2005年4月末現在で1,278ラックが稼動中である。首都圏の同業者の平均的な利用率が40%といわれている中で当社の稼働率は71%と非常に高い水準を誇っている。
当社のiDCとしての優位性であるが、
(1) 安定した顧客基盤:世界トップクラスのアクセスを誇るYahoo!Japanが最大顧客(売上の約60%を占める)
(2) ローコストオペレーション:高トラフィックを背景とした通信コストの削減により市場の実勢にあわせたサービスを提供
(3) 競合他社との差別化:高トラフィック型のポータルサイト顧客が要求する短納期のカスタマイズ対応
加えて、IRIの保有するインターネットエンジニアリング技術の応用により、最適な環境で情報が流れるようにネットワークを構築・運用すること特徴として挙げられる。
今後の事業展開として、2007年度には売上100億円を目指しているが、iDC事業はインフラ事業で売上を伸ばすには設備投資が必要となり収益性が乗数的に高まらないと認識している。IDC事業は1ラックあたり月額30万円台の収益だが、顧客のポータルサイトはサーバー1台でその何十倍も稼いでいる。 そこで当社は配信に必要なプラットフォームを提供するだけでなく、自ら企画・制作にも携わり、コンテンツメーカーであり配信事業者というB2Cのビジネスモデルが付加されることにより収益性の高い事業展開へて舵を切っていきたいと考えている。将来的にはiDC事業の売上を50%まで落として、ブロードバンド配信事業と二つの柱で成長を図りたいそうだ。
当社がブロードバンドの情報発信拠点としてiDCからMedia Distribution Centerへの転換を計れるかどうかはコンテンツの企画・制作が重要となるが、大和田社長はIRIに入社する以前のニューメディア総研時代にはビデオコンテンツの制作なども手掛けており、週末にはブロードバンド配信事業のコンテンツ制作の現場で監督や出演者とも意見交換をすると言う。
インターネット・エンジニアリング技術から視聴者のハートを捉えるコンテンツ企画制作技術への移行が当社の更なる成長への鍵であろう。
ブロードバンドタワーHP:http://www.bbtower.co.jp/
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com
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