2005年2月8日午前8時20分、ライブドアがニッポン放送株式の発行済株式数の5.36%を取得、併せてMSCBを800億円発行することをTdnet(東京証券取引所が管理・運営する適時開示情報閲覧サービス)に開示した。その結末は読者の皆さんが良くご存知のとおりである。
そして半年が過ぎ、上場企業のM&Aに対する意識は高まり、買収・被買収の双方の立場に立って各種の議論が行われてきた。6月の定時株主総会で多くの上場企業が買収防衛に係わる資本政策を株主に提示したのも事実である。
買収したい側と買収されたくない側の双方にそれぞれの言い分があるのは間違いない。ライブドアのニッポン放送株取得のときに、双方の発言を正当化するために使われたキーワードは「企業価値」という言葉であったことを皆さんも記憶にあるだろう。
では一体「企業価値」とはなんだろうか? ニッポン放送に絡んで話を進めると、ライブドアが登場する前から、村上ファンドがニッポン放送の株式を相当数保有していたことは事実である。
村上ファンドが二桁%の株式を保有していてもニッポン放送の経営陣、社員は動揺しなかったが、ライブドアが同様の動きに出た途端に社を挙げての拒絶反応を開始した。株式市場で起こっていることは、ただ単なる株式の取得を特定の企業またはファンドが過剰に行っているだけである。
株式の取得を進めた両社にとっての最終ゴールは「企業価値」の向上であるのはまったく同じことである。議論をわかり易くするために「企業価値」=「時価総額」と置き換えて考えてみる。
ニッポン放送が狙われた理由は、株価が純資産倍率1倍にアンダーバリューされていたからに他ならないのであるが、時価総額を上げるためのアプローチは村上ファンドとライブドアでは大きく異なる。
株主として会社にプレッシャーを与え、株価のフェアバリューを実現することにより結果として株価を高めようと努力したのが村上ファンドである。一方のライブドアは、自社のインフラとの融合で事業価値を高め、ニッポン放送のフェアバリューそのものを高めようとしたのがライブドアであったと考えられる。
ここで重要なポイントは、ファイナンシャルインベスターであるファンド株主は株式市場で取引されている株価の向上を目的として企業に干渉してわけだから、企業の中身を大きく変える存在ではないということだ。一方で資本力にものを言わせて、「買収」という二文字で株式を取得する資本家株主は、事業価値向上により企業価値上昇を狙う事が目的であるから、当然ながら被買収企業に構造改革が求めてくる存在であるということだ。
株を買われる立場の企業にしてみれば、次元は違っても両者ともやっかいな存在であるにはちがいない。ところが、一般の株式投資家にしてみれば、アプローチが異なれども両者の存在はいずれも企業価値、言いかえれば、株価の上昇をもたらしえる可能性を秘めた存在であることは間違いない。
日本の株式市場に二つ種類の株主が新たに登場したことにより、企業価値を低く放置する企業経営者が淘汰される時代が目前に迫っていると言えよう。
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com |