ネット証券とパチンコ店は競合、パチンコファンとデートレーダーは似ている。週刊ダイヤモンド8/27号掲載の山崎元氏のコラムからの引用です。デートレーダーの日常はパチプロに似ており、両者の経済的な構造にも類似性があるとのことです。株式投資はある程度のお金と時間を使えば非常に楽しめる大きな娯楽ですから、この意見はとても共感できる内容でした。さしずめ投資情報を提供している東京IPOはパチンコ攻略本を出している出版社に近いでしょうか。
以前パチンコ業界の方のお話を聞いたことがあります。パチンコ店の経営は一言で言えば「集客再投資産業」ということでした。ファンの期待度は常のほぼ一定水準にあるとすると、新しいパチンコ店のオープン時には提供する満足感は、期待を大きく上回る。しかし時間の経過ととも低下し、やがて期待感を下回る。その時点で店は一定の台数を入れ替えて新装開店!と銘打ったイベントを行い、提供する満足感を高める。これを繰り返すことで集客を維持していくが、それだけではどうにもならなくなった時点で店舗全体の全面リニューアル!ということになるというお話でした。こうしたイベント頻発(=機器入れ替え)傾向が強まり、最近のパチンコ機器の寿命は短くなっているそうです。これは店の経営を非常に圧迫する要因となっているようです。
一方パチンコ参加人口は長らく減少傾向にあり、中でも一部ヘビーユーザーに多くの収益を依存する構造。そのヘビーユーザーのニーズに応えるギャンブル性の高い機種の人気が高い。これを規制する当局とのいたちごっこが繰り返されている。このままでは業界の未来は暗いので、ギャンブル性依存の機器ではなく人気コンテンツと組み合わせたストーリー性のある機器を作り、ライトユーザーを呼び込める明るく楽しい複合エンターテイメント空間を提供して業界再活性化!というお話も伺いました。
さて一方の株式投資の世界はどうでしょうか。こちらはインターネットの普及によるネット証券の誕生と隆盛で株式投資は身近な娯楽として広まって来ています。ネット証券は基本的な指値、成り行きから逆指値、信用取引、オプションなど様々な売買制度を追加導入し、さらに手数料を下げることで参加者を広げてきました。これらはハードとソフトで分ければ、ハード、パチンコで言えば店作りでしょうか。一方ソフト、パチンコで言えば次々と投入される新機種に当たるのは上場企業三千数百社、なかでも次々に登場してくる新規上場企業でしょうか。パチンコ機種はほとんどが使い捨て、寿命を終えると店頭から姿を消します。その寿命はメーカーや店など運営者側の意向が強く反映されていると言われます。一方で株式銘柄は時々の人気は変わりますが、退場は少なく、基本的にはどんどん増える一方です。運営者側の、この銘柄で稼ぎたいという意向は働かなくなっています。増えつづける銘柄とそれに伴う売買高の爆発的な増加でシステム投資は増加、ネット証券は膨大な投資で、インフラを提供する産業になっています。
前述のように一部革新的なパチンコ業界関係者はギャンブル性を下げて、機種と店の空間を含めたエンターテイメント性で参加者を惹きつけることを業界活性化の方策として提唱しています。一方でネット証券はギャンブル性を煽る方向に進んでいるように見えます。ネット証券各社は信用取引を導入、高金利の無期限取引も導入。一方で手持ちの株を貸すことで参加料の足しにすることもできます。IPO銘柄の短期売買はまさにギャンブルに近いものです。ネット証券の収益成長は、各社の意向に関わらず結果としては、お金を借りて株式売買に参加するという行動を促す、まさにギャンブル性を煽ることにより伸びている側面があるといえます。ただギャンブル性が行き過ぎるとライトユーザーを排除し、ヘビーユーザーに依存し、長期縮小傾向に陥ったパチンコ業界のような状況に陥る可能性もあるのではないでしょうか。攻略本の編集だけでなく、ヘビーユーザーもライトユーザーも自分なりの投資ルールを持ち、楽しく参加できる健全な娯楽としての株式投資の普及に貢献することが東京IPO初め業界関係者の重要な役割であると思います。
株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史
(CFA協会認定証券アナリスト) |