「不良債権」この言葉が新聞の一面から消えて久しい。2003年の春先まで日本の銀行はこの4文字に相当苦しい思いをしていた。もちろん、銀行の融資先であった事業会社も同様に各種の債権が焦げ付いて貸倒れ引当金として特別損失を計上した企業も多々あったはずだ。
遡れば1997年秋に山一證券、北海道拓殖銀行、翌年に日本長期信用銀行、日本債券信用銀行等が次々に危機に瀕して倒れて行ったことを思い出す人は最近少なくなってきたのではないだろうか。1999年に入るとネットバブルに騒ぐIT関連企業をよそ目に、日本の歴史のあるイスタブリッシュメント企業は三つの過剰(人・設備・債務)に苦しんでいた。
今回インタビューに応じていただいたリスクモンスターの菅野社長が所属していた総合商社の日商岩井も例外ではなく、巨額の特別損失を1999年に計上したのである。
当時、入社以来審査部に在籍していた菅野社長は、上司で現当社会長の杉山氏から管理部門もお金を稼ぐことができないかを検討するように指示を受けた。そして、当社の現在の専務取締役である藤本氏を含めてリスクモンスタープロジェクトが審査部の中に立ち上がったそうだ。
世はまさにネットバブルの時代でもあり、商社はインターネットを使ったマーケット・プレイスを構築して、自らが中抜きされるのを防ごうと頑張ったが、結局、どこの企画もことごとく失敗に終わった。
そうした動きの中において、B2Bのネットを使ったマーケット・プレイスは顔の見えない相手との取引になり与信リスクがかなり高くなることがハードルになっていることに気付いたそうだ。そこで考えたのが、B2Bのビジネスにおいて、与信機能に特化したソリューションを提供し、お金を頂くことであった。
審査部に蓄積された与信ノウハウをIT化、つまりインターネットを使ってサービス提供することを前提とした事業計画書を作成し出資者を募り、最終的には日商岩井から独立する形で、2000年9月に当社を設立し取締役に就任したのが菅野氏である。
社名のリスクモンスターは、プロジェクト名をそのまま社名にしたそうだが、リスクというモンスターを眠らせておくと言う意味でロゴのとなりにモンスターを配置したそうだ。またリスクモンスターの頭文字のRMはリスクマネージメントの頭文字でもあるとともに、リスクモンスターの短縮はリスモンであることから、覚え易いだろうとの意味合いもあった。
さて、当社の具体的なビジネスであるが、取引先の与信情報をインターネットを使ったASP形式にて提供している与信管理アウトソーシング企業である。
与信管理とは、企業間取引を開始するにあたって、相手先企業に関するさまざまなデータを収集・分析し、その信用状況を検討するとともに、与信限度額(売掛債権限度額)を設定することで、取引によって生じるリスクを回避・軽減すること、と会社案内に書かれている。
読者の皆さんにもう少し噛み砕いて説明すると、商売をするときに現金商売ならば問題ないが、商品は先に送って代金は後から支払われる場合に、どれくらいの金額までの商売なら相手を信じて商品を先に送っても大丈夫なのかを判断する材料を提供するのが当社のサービスである。
当社はサービスの提供の手段としてインターネットを使っており、顧客はインターネットと電子メールで取引先の与信管理を行うことができるということである。
現在の顧客数は6月末で2200社程度だそうだ。以降もハイペースで顧客が増えており、今年度750社の増加を会社計画としているが、上振れも見込めそうだ。その背景には、上場による当社の社会的認知度の向上と営業代理店制度の効果が出てきたと認識している。
1社あたりの売上は、ライト会員で月額1万円、レギュラー会員で月額6万円と少額の課金となっている。菅野社長曰く、当社のASPサービスは対面営業が基本、ドブ板営業を続けて、早く損益分岐点以上の売上を上げた者が勝ち抜く仕組み。当社は、東名阪に24名の営業マンを配置し、リスク管理が経営の課題になっている卸売業や製造業などを中心に電話営業を行っている。クロージングはアポをとって訪問すれば3社に1社は契約となるそうだ。最近は金融機関や会計事務所の会員も増えてきている。
会社は、対象となる潜在顧客数を拠点のある3大都市圏の東京/名古屋/大阪で25,000社程度と考えており、何年後とは言えないが、市場を開拓していけばASPサービス事業だけで年商50〜60億円までくらいは到達できるはずであると菅野社長は言い切る。(※今期の会社発表の売上予想は11億円)
投資家の皆さんへの還元は配当で行いたいが、現状の利益水準ではご満足していただけないので、できるだけ早い段階で満足していただける配当を出せる水準まで持っていきたい。
今後の展開については、誰が社長になっても利益がでるような組織力と収益基盤の強い会社に育てていくのが菅野社長の次なるチャレンジだと言う。
株価は右肩上がりで、世の中は景気のいい話が飛び交っているが、中小企業の経営者は過去に与信リスクをないがしろにしてきたお陰で事業が危機に陥った経験を忘れることはないであろう。与信という言葉の重みが定着すればするほどリスクモンスターの事業にはフォローウインドとなるであろう。
リスクモンスターホームページ http://www.riskmonster.co.jp/
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com
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