今を遡ること十数年前、筆者がスイスに滞在していた頃であるが、年末のクリスマスの時期にトイレの水周りが壊れたことがあった。欧州はクリスマスの時期から年を明けるまで完全なるお休みモードで、どこを探しても修理に来てくれる業者を見つけることができなかった。同じアパートに住んでいた日本人駐在員のお宅にやむなくご迷惑をかけながら年を越したことを年末になると思い出される。
生活上のトラブルは突然やってくるもので、なかなか前もって備えることはできないものである。自動車の鍵のインロック、高速道路上のガス欠、キーホルダーの紛失、水道が壊れた等々は日常茶飯事とは言わないまでも、長い人生のうちに必ず何度か遭遇するトラブルである。
このような生活トラブルを解決することを事業の目的としている会社がある。その名前は、ジャパンベストレスキューシステム(以下JBR)、今年の8月30日に東証マザーズ市場に上場した。
今回は同社の榊原暢宏(さかきばら・のぶひろ)社長にお話をお伺いした。
JBRの経営理念は「困っている人を助ける」と書かれている。
榊原社長がどうしてこの事業を始めるに至ったのかを最初に聞いてみた。
現在38歳の榊原氏の幼少時代は仮面ライダーなどの正義感に溢れるキャラクターが子供の憧れだった。そのころから困った人を助ける自分自身をイメージしていて、青年に成長してからも、高速道路で止まっている車やバイクを見かけると、いったんは通り過ごしても次のインターチェンジで降りて反対車線に入って戻ることが何度もあったそうだ。
その後、大学を卒業して、パルコの子会社のアクロスに入社し、百貨店の店員としてアパレルの売り子をしていた。社会人1年生の時から起業を目指し、夜になると映画館の清掃、深夜はカラオケの店長などをして、5年間で2,000万円を貯めた。
そして独立し有限会社ノアを設立。愛知県の150のバイクショップが嫌がる仕事を一手に引き受けた。深夜に山奥に動かなくなったバイクを取りにいったり、車検のために長時間並んだりと、バイクショップにとっては大変便利な存在になっていった。
たった一人の事業であったが、3年間が過ぎてもまったくといっていいほど儲からないのでそろそろギブアップしようと思い、店じまいのお知らせをバイクショップにすると、「それは困る!」と言われた。
そこで設立したのが日本二輪車ロードサービス株式会社であった。バイクショップに会員になってもらって会費を頂くというストック型のビジネスへの転換を図ったのである。
バイクのトラブルを処理している間に気が付いたことがあった。バイクの鍵をなくした人は、自宅や自動車の鍵も同時になくしている。ここから鍵の紛失を始めとする生活トラブル解決サービスが始まり、1999年には社名をジャパンベストレスキューシステムに変更し、生活救急車をブランドとしたサービス提供を始めるのである。
現在は、バイク、自動車のロードサービス、ガラス、水まわり、カギ等に関する住宅・店舗の緊急トラブル、ハウスケアサービス、パソコンなどのお困り事対応サービスなどにまで対象を広げている。
詳細は同社のHPを参照願いたい。
→ http://www.jbr.co.jp/service/index.html
サービスの提供は、当社と契約している全国の加盟店および協力店がお客様を訪問しトラブルに対応する仕組みをもっている。2005年9月末現在で契約加盟店・協力店の約600店がサービスを提供しており、それぞれのビジネスモデルは次のとおりである。
1.コールセンター(非会員)事業
一般のお客様が生活トラブルに遭われた場合にお電話をいただき、トラブルの内容に応じて全国の加盟店から現場に向かって問題解決を行うサービス。当社の売り上げは、加盟店の売り上げの20%となる。
2.会員事業
お客様から年間に一定額の会費を頂き、トラブルが起こったときに電話を頂き、加盟店が出動するのは同じだが、出動費は基本的には無料で特殊作業や部品などは実費となるサービス。JBRの売り上げは、年会費そのものであるが、出動があった場合にはJBRが加盟店にその費用を支払うことになる。会員数は9月末でバイク会員が約10万人、生活会員が約6万人となっている。
3.企業提携事業
お客様との接点が当社と契約する法人となる。当社は法人と毎月定額の基本契約を結び、サービス提供の都度出動費を頂く。トラブルに対応するのは当社の加盟店であり、出動費の80%を加盟店に支払う仕組みなっているため、売上総利益率は他の2事業と比較して低くなるビジネスモデルである。
次に株主の皆さんが一番気になる業績であるが、この9月期は売上34億円、経常利益2億4000万円(予想)と前期比で大きく成長しそうだ。
今後は最低でも経常利益率10%を維持したいそうだ。
中期的な目標としては、5年後に売上高100億円、経常利益率20%を目指すとのことである。
いままではトラブルに巻き込まれたときにお金が返ってくる仕組みの保険に加入している人が多いと推察するが、良く考えてみるとトラブルを解決してくれる人や会社が提供する仕組みに安心料を払ったほうが心強いのではないだろうか。
日本では安全はタダだと言われてきたが、最近は犯罪が多くなってきている。110番と119番のトラブルは国に任せておくとして、それ以外のすべての生活トラブルを解決する組織作りに挑戦するJBRのサービスは、ますます忙しくなる現代人の生活には欠かせないものになってくるに違いない。
最後に筆者のコメントであるが、1時間あまりの面談での榊原社長の人あたりの良さから、この人は「人助けが天職である」と感じさせるものがあった。
JBRホームページ http://www.jbr.co.jp/
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com
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