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編集長のジャストフィーリング 〜時価総額を卵に置き換えて考えてみると〜

東京IPO編集長 西堀敬

 

新規上場企業の社長に株主還元について質問すると、「当面配当はせずに企業価値向上で株主に報いたい」と答える経営者が多い。

この時に使っている「企業価値」とは「株価」であり、株価を上げることで報いたいという意味のようである。

先般、経済産業省の企業価値研究会のメンバーで一橋大学大学院教授、GCA代表取締役の佐山氏に企業価値についての解説を受ける機会があった。

※佐山氏はライブドアのニッポン放送買収以降メディアへの出演も多くご存知の方も多いだろう。

佐山氏プロフィール → http://www.nobuosayama.com/profile/

M&Aの観点から企業価値を考えると、事業価値(エンタープライズバリュー)から債務を差し引いた金額が企業価値であり、それが株式価値つまりM&Aバリューと定義されている。

数年前までは時価総額が企業価値を十分表現していない企業が多く、外資系ファンドばかりではなく国内でも村上ファンドが東京スタイルなどを手掛けたことは読者の記憶にもあるはずだ。

ところが、ここのところの株価上昇で時価総額が佐山式計算による企業価値を下回る上場企業はほとんどなくなってしまった。

つまり企業買収の立場で企業価値を見た場合、魅力的で買収可能な時価総額の企業は見当たらないということである。

では次に時価総額について考えてみよう。

計算式は、時価総額=株価x発行済株式数、である。

時価総額は一株でも取引所で株価がつけば、掛け算でその企業の市場での価値として表現される。

ここで重要なことは「一株」の価格で決まるということである。

例えば、スーパーマーケットに採れたての卵が1,000個あるとしよう。お店がオープンするときに1個10円の値段を付ければ、1,000個の卵は10,000円の価値がある。この10,000円が卵の価値であり、いわば時価総額に匹敵する。

ところが夕方になって500個が売れ残っていたとしよう。まだ賞味期限内であるとするならば、商品としての価値はあるが、翌日以降も10円で買ってくれる人がいるかどうかはわからない。翌日に2円引きの8円で300個売れて、200個は売れずに廃棄したとすると、卵1,000個の対価は7,400円だったということになる。

このように時価総額というのは、企業を売却しようとしたときの価値、裏返して見ると、企業を買うときの価値を表現しているとは言い難いのではないだろうか。

先日、自らの会社を株式交換で上場会社に売却した経営者が相談に来られた。取得した株式を市場で売却しようとすると株価が下がって、譲渡価値を下回ってしまう恐れがあるので何か良い方法はないかと。

このことの意味するところは、上場企業が買い手の立場で株式交換を利用してM&Aを実行する際には高い時価総額の効果は計り知れない。ところが、逆の立場で売り手が株式を現金に変えようとすると十分な対価を現金で得られない可能性があるということだ。

筆者が思うに時価総額とは企業経営者にとっては非常に好都合な企業価値尺度である。その日その日に一株でも株価を付けさせればその株価が企業の市場価値を表現してくれるのである。

最近は上場よりも譲渡によってイグジットされる経営者も多いようだが、このロジックを良く理解した上で、自らの企業の譲渡価値を計算されるべきである。

採れたての卵ではなくて売れ残った卵を引き取るようなことにならないように気を付けていただきたい。

東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com

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