今から20年ほど前に証券外務員試験を受けたことがある。当時はデリバティブなどの複雑な取引はなく非常にシンプルな択一式の問題ばかりであったように記憶している。
最近、当社にも証券業務の経験のない社員が入社するようになり、知識としての証券業とは何かを身に付けるために外務員試験の受験を指導している。
試験のテキストを読むと証券取引法の解説の部分に「証券市場における取引の規制」という項目がある。その中の証券取引法157条1号は「不公正取引禁止の包括規定」についてかかれている。今回のライブドアの事件は、証券取引法上はこの分野での罰則が適応されることになりそうだ。
不正取引とは、
一般的不正行為として、
・不正の手段、計画又は技巧をすること
・虚偽又は不実表示による金銭等の取得
・売買取引等を誘引する目的をもって、虚偽の相場を利用すること(157条)
風説の流布等として
・相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、儀計を用い、又は暴行若し
くは脅迫をすること(158条)
相場操縦として
・市場操作
・市場操作の風説の流布
・売買取引等に関して、虚偽表示をすること(159条2項)
などが挙げられる。
一方の罰則であるが、上述の内容の不正取引を行った者に対して
・5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金 (197条1項7号)
・財産上の利益を得る目的で、左記の行為により相場を変動又は固定させ、
その相場により取引を行った者は5年以下の懲役及び3000万円以下の罰
金(197条2項)
・上記の行為により得た財産は没収(198条の2)
・仮装売買、馴合売買、相場操縦については上記罰則以外に損害賠償責任(1
60条)が科せられるとある。
が科せられるとある。
今回のライブドア事件で堀江前社長が有罪になったとすれば、懲役5年、財産没収そして損害賠償もありうる。罪が確定した時点で堀江前社長は自己破産確定といったところだろうか。
さて、ここで問題提起である。
証券業に携わったことのある者は、多かれ少なかれ証券取引法に触れるような行為は罰則規定があることを承知しているが、多くの上場企業の経営者はそのほとんどが証券取引法違反とはどの程度の罪になるのかを理解していないのではなかろうか。
我々が日常生活の中にも、罰則規定があるとは知らずに規則を犯していることが多いのも事実である。
例えば、東京都千代田区の条例で路上禁煙地区がある。ある地域に入ると突然禁煙となり罰金を払わされる。また、皆さんが常日頃利用されている自転車ですら、「自転車の運転者は、夜間、内閣府令で定める基準に適合する反射器材を備えていない自転車を運転してはならない」と道路交通法で定められていて、その違反者に対して、「5万円以下の罰金に処する」とある。
このように罰則規定について誰も教えてくれないルールが世の中に存在していて、そのルールを侵したものは罪に問われるわけだが、本当にそれでいいのか?という疑問が残る。
ライブドアの堀江前社長も「証券取引法に触れると捕まる」と話している場面がテレビで放映されている。でも、一方では「命までは取られない」とも言っている。
堀江氏に限らず、我々一般市民においても、なんとなく違法な事くらいはわかっていても、その違法がどれほどの罪になるのかまでは知りうる機会がほとんどない。
企業を株式市場に送り出す証券取引所には上場企業の経営者の倫理観と証券取引関連の法律違反に対する処罰くらいは教育を施す義務があるのではなかろうか。
子供に「赤信号は止まれ」と教えない親はいない。取引所は新規上場企業にルールくらいは授けていただきたいものである。
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com
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