昨年12月にジャスダック市場に上場、新潟県長岡市に本社を置く株式会社プロデュース(ジャスダック6263)をご紹介します。新潟の上場企業といいますと、コメリ、アークランドサカモトなどの小売業が強い土地柄という印象があります。そうした中でエレクトロニクス産業に大きなインパクトを与える技術を持った同社のIPOは、正直意外な印象でした。しかし実はこれは何ら驚くに値しないのだ、と認識を改めました。
同社は長岡市に本社と主力工場を置き、経営幹部も地元出身者が大半を占めています。そしてその周辺には自動車や二輪車の計器製造の日本精機、有機EL製造装置のトッキ、精密工作機械のツガミ、工作機械の倉敷機械など上場メーカーの主力生産拠点があります。さらにエリアを広げると、有沢製作所、コロナ、ヨネックスなどの製造拠点もあります。このように長岡周辺エリアは、元々製造・テクノロジー企業の育つ土壌だったようです。工業高校、高等専門学校や技術科学大学と人材の供給や研究の拠点があることも一因でしょうし、はたまた河井継之助や山本五十六を生んだ伝統的な文武を尊ぶ精神に因るのか。
数年前に新潟の地理的要因と気候風土が生む豊かな食文化を以って「新潟はイタリアだ!」と主張する本が出ていました。今回、私はプロデュースという有望企業の周辺に、他にも高い技術力を誇る企業が数多くあることを認識、「長岡は日本のトリノである!」と主張します。(ともに山に近く雪が多いウインタースポーツのメッカであり、トリノは自動車関連などテクノロジー企業が集積している場所として知られています。)
それはさておき、同社佐藤社長は地元工業高校を卒業後、地元の機械メーカーに勤務し、設計、製作、納品など一連のプロセスを学びました。その後23歳で独立し、大手の下請けで装置の設計・製造の仕事を行い、徐々に顧客の信頼を高めて行きました。そんな中で取引先の大手電子部品メーカーから相談を受けたそうです。それまで微細なチップコンデンサ用の電極付けの装置は大手海外メーカーのものが圧倒的なシェアを持っていたものの、微細化が加速するにつれ従来工法での限界が来ているという。これに代わるものが作れないか、という話でした。
そうした業界トレンドを感じていた佐藤社長は、あらたな技術・工法を用いた装置開発に着手しました。従来、ペースト(液状の材料)を塗って固めて電極にする際には、ゴムローラー状のものを使いチップに転写させる方式が多く採られており、高さ(厚み)を持たせるには重ね塗りをし、少しずつ高さを出す方法等がありました。これを試行錯誤の結果、微細なサイズ対応でありながら一回の塗りを立体的に行い、一発で必要な高さを出す工法を開発し、それを組みこんだ装置の製品化に成功しました。これにより電極付けの工程は大幅に効率化され、チップコンデンサの微細化や製造の工法全体にも影響を与えるほどのインパクトをもたらしたそうです。
新潟の小さな企業のほかにチャレンジする企業がいなかったのか?と感じますが、チップ部品の電極付けは200億円くらいの市場規模であえて挑戦する大企業はなく、はたまた大きな海外メーカーの独占にチャレンジする小さな企業もいなかったようです。プロデュースはこれに限らず、顧客の「こんなことができたら・・・」というニーズに兆戦していくことで、自らの事業領域を広げてきている会社と言えます。
現在はこの時期に苦労して習得した立体的に塗る技術(3Dアプリケーション技術と命名)が同社のコア技術となっています。この「液体を立体的に塗る」技術は、ほかの塗る工程を必要としている様々な分野にも横展開しライン、膜、パターン等の形成技術として応用できるものだったのです。現在は太陽電池パネルやFPDなど、非常に規模の大きな市場でへの応用が進んでいます。こうした分野でも3Dアプリケーション工法で様々な製品の製造プロセスを変えています。これ以外にも様々な製造プロセスの効率化のニーズに応えるソリューションを提供し、自動車産業などとの取引も始まっているようです。
同社の今後の成長の鍵はやはり人材。塗る技術をさらに磨いていくことや、製造プロセスの効率化の仕組みづくりなどを進める人材をより多く確保していくために、今後は人材の獲得を目的としたM&Aなども検討していくようです。既に長岡エリアを代表し、今後さらに国内外で活躍するエクセレント・カンパニーになる可能性を持つ企業です。
コーヒーブレークのブログ書いています。http://ameblo.jp/mplstwins/
株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史
(CFA協会認定証券アナリスト) |