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編集長のジャストフィーリング 〜IPOと二極化の流れ〜

東京IPO編集長 西堀敬

 

今日の日経新聞に「検証ライブドア事件」の特集記事があった。

記事の内容は記者の方々が公表されている事実をベースに書かれたことであり、なるほどそうだったのか、という部分と読み物としても非常に興味を持てるものであった。

その記事の中で筆者の目に留まったのは、東京地検特捜部の鶴基成部長のコメントである。「額に汗して働く人々が出し抜かれる社会にしてはならない」と語ったと書かれている。また一連の株取引での堀江氏個人の「利得」についても徹底調査が行われるようだ。

なぜ東京地検がここまで執拗にライブドアと堀江氏の成した事に対して解明することに執着しているのか?

投資事業組合を使った自社株式の売買益の付け替えによる粉飾決算は確実に「黒」であるのは誰の目にも疑う余地はないだろう。

また投資事業組合を通じたライブドア株式の売買益を堀江氏が個人的に海外の口座で秘匿しているとしたら間違いなく違法である。

一罰百戒で、他に同じようなことをやっていそうな会社や経営者に対する牽制を目的としているならばいいのだが、株式市場を使った資金調達や上場によって得られる創業者利潤などまでも否定するようなことにならなければいいと心配が先に立つ。

また次元は異なるが、昨晩、WBCでの日本の韓国戦勝利のリピートビデオ番組にも飽きてきて、もうそろそろ休もうかと思いながらケーブルテレビのチャンネルを回していると経済アナリストと直木賞作家の公開対談が放映されていた。

経済アナリスト氏によると「日本は、生まれながらにして将来があらかじめ決まっている社会、頑張りや努力には限界がある社会になってきている」そうである。

もしそのような閉塞感が日本中に蔓延しているとしたら、ライブドアや堀江氏が国民の多くに支持されたのもやむを得ないと言わざるを得ない。

堀江氏の「お金があれば何でも買える」は物の例えであり、お金という万人に共通の価値で説明するのが誰にでもわかりやすいのでその言葉を使ったと推測する。

また「時価総額世界一企業」を目指すということも、社員、株主、投資家にわかりやすい目標であったと考えられるのではないだろうか。

事業そのものの価値をいくら説明しようとしても、規模が大きくなれば全容をうまく説明することはできないし、会社の価値を定量化して表現することは本当に難しいことであると考えられる。

筆者の訴えたいことは、上場とは企業や経営者が社会的な信用や知名度を得るために行う行為であり、結果として現金という形でその恩恵(企業の資金調達、創業者利潤)を得ること事態は当然のことである。

忘れてはならないのは、その上場というステータスを得るために経営者は人には知られていない試練を乗り越えてきているということである。

インターネットの登場で世の中に大きなインパクトを与えた経営者であるソフトバンクの孫正義氏、ライブドアの堀江貴文氏ともに裕福な家庭には育ってはいない。

筆者が過去にお会いしたIPO企業の経営者の努力や頑張りは並大抵のものではない。聞いてみれば、一般の方々と違った行動様式をもっているわけではないが、人一倍自らの時間を事業に使い、打たれても打たれても我が道を行くという弛まぬ努力と忍耐があったからこそ上場企業というステータスを得られた方々が多いはずである。

また実際の経営においては、資金繰りで何度も困り、銀行に通えども事業を理解してもらえなくて融資を受けられなかったという記憶がトラウマとなって、本当に1円の重みを感じているが故にお金に恋焦がれるのは当然の成り行きであると言えよう。

このような創業者の方々に、「額に汗をしていないお金を上場によって得た」なんてことは口が裂けても言えるものではない。

貧富の差が二極化する世の中であればあるほど、日本の証券取引所は誰にでも開かれた株式市場を目指し、日本の社会はIPOによる事業の成功者を称える世の中であって欲しいと願うばかりである。

2000年の新興市場設立時と違って、いまや新規上場とはそんなに容易いものではなくなってきていることを国民の皆様にもよくご理解いただきたい。

また、上場は「悪」、上場による株式譲渡で得たお金は「黒いお金」なんてことを連想させるような報道や発言は謹んでいただきたいものである。

東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com

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