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配当の質を考えよ! 〜西堀編集長への挑戦〜
  株式会社ティー・アイ・ダヴリュ ジェネラルパートナー 藤根靖晃
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3月15日の東京IPO西堀編集長のコラムにおいて、「(配当を行わない企業は)銀行借入に対する利息を否定していることに近い」という趣旨のコメントがあった。このコメントを100%否定するつもりはないが、そのまま支持する気持ちにはなれないのでいくつか私なりの論点を述べたい。

既に成長資金を必要としないにもかかわらず、多額のキャッシュを現預金として眠らせているような企業が論外であるのは言うまでも無い。配当を支払うべきは、ROEを上回る利益成長率が達成できない場合である。ROEの水準を維持するために配当による株主資本の調整が必要であるからだ。

しかし、成長資金が必要な企業は配当をすべきではない、と考えている。仮に10億円の配当金を支払った企業が、エクイティで10億円調達したとする。会社のキャッシュフローでは同じであるが、株主は配当金に対して20%課税されるわけだから、他の条件が全て同じであるならば、株主の価値は2億円減価していることになる。配当性向が高いほど、株主価値の減価度合いは大きくなる。エクイティを借入金に置き換えてもキャッシュフローの構造が変らなければタイムシフトを行っているだけ。いずれはエクイティ・ファイナンスが必要になる。

本来的には適当で無いと考えられる高い配当を行った会社は、経営の歯車が狂ってしまうことも多々あるように思われる。社名は申し上げられないが過去の問題ある高配当性向企業について例を挙げておきたい。

(1)情報通信セクターの某S社(今は吸収合併され存在しない)

   本来、資金需要の高い企業にもかかわらず、配当性向40%を掲げ株主還元
   優良企業を演出。後に関係者の話から推測すると、この40%の配当性向は
   役員に顔を出していない大株主の都合(別の事業を行うための資金需要)
   によって決めたものであった様子。さらに、出資比率を下げたくない大株
   主の意向からエクイティ・ファイナンスも出来ず、子会社上場等により必
   要資金を捻出。その子会社は後に倒産。近視眼的な戦略の失敗を積み重ね
   た上、経営陣の一部が暴走して巨額投資へ。社内の権力抗争も激しく、大
   赤字に。

(2)情報通信セクターの某C社

   僅かに黒字が出ているだけなのにもかかわらず、配当を開始。配当性向
   46%という大盤振る舞いは利益剰余金の15%の水準に達する。当然ながら
   資金調達が必要であるのでエクイティ・ファイナンスを直ちに実施。結果
   から見れば、エクイティ・ファイナンスのために株価を吊り上げを図った
   形。その後、M&A推進による業績拡大策を打ち出すものの、下方修正の連
   続。その間、第三者割当増資等で株主価値の希釈化は多大。

これとは別の話だが、社長が大株主で配当性向が比較的高いと全体的な報酬体系が低い企業が多いようだ。「俺はこんなに働いて、会社はこんなに利益が出ているにもかかわらず、報酬はたった2,000万円しか取っていない」なんて自慢していたオーナー社長もおられたが、個人の税務対策のために給与水準を低く設定しているだけ。それで社員を納得させられると思っているとすれば“オメデタイ”としか言いようが無い。こうした企業は離職率が高い傾向にあり(悪く言えば社員を使い捨て)、これから人口減少になるなかで人材採用に苦労する可能性も考えられるだろう。

さて、結論を申し上げれば、配当性向が高い、低い、あるいは無配であるということが企業を評価する際に最優先すべき尺度では無い。新興市場の成長企業であればなおさらである。一番重要なことは、どれだけ本当に経営者(経営チーム)が、自社の経営のあるべき形を、従業員を、株主を考え、考え抜いているかということである。経営企画部門やコンサルタントが作成した草案を述べているだけの経営者と、自分の頭で苦悩し考え抜いた経営者の“言葉”は違うものだ。

「配当についての方針は説明されねばならない」ことは当然である。それは、配当性向が高くても低くてもその理由を明示するよう努力することが求められる。

私が最悪だと思っているのは、「配当性向30%だからいいでしょ?!」みたいな、ただ単に市場の圧力に流されて予定調和的に増配を行う会社である。そんな気骨の無い企業は一時的に株価が上がっても中期的成長は期待し難い。自信を持って早期に売却をお勧めしたい(叩き売れ!)。

逆に利益はあっても信念を貫いて無配を継続する企業には注目する価値がある。短期的に市場評価は低くてもこうした企業の中には大化けするものもあるだろう。

 

※ダイヤモンド株データブック春号「厳選銘柄版」で特集“これから騰がる新規公開株54”を執筆しました。

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