昨日、某銀行の方と食事をしているときに銀行の個人顧客が保有する資産管理についてお話する機会があった。
銀行の窓口販売で外貨建債券などを組み入れた投資信託が飛ぶように売れていることは読者の方々もご承知のことだと思う。またここ何年か前から日本と海外の国々との金利差に目をつけて外貨預金をされている方々も多いことと推測する。
私は過去に証券会社に勤務していたので、顧客の保有商品の評価損益というのは日々値洗いされることに慣れているのだが、どうやら銀行はそのような仕組みを持っていないという話を某銀行の方に聞いて非常に驚いた。
そう言えば、正月に実家に帰ったときに、父親が外貨預金で評価損が大きくなって銀行に怒鳴り込んだ、と言っていたが、さもありなん、ということが初めてわかった。
証券会社にいると顧客資産が減価すると非常に気が重くなることが往々にしてあるのだが、銀行員の方々は習慣の違いからか顧客資産が減価していても何も感じない人種ではないかと思ってしまう。
銀行で買える金融商品は価格のリスクが低いだろうと安心しているかたも多いかもしれないが、商品そのものの価格変動リスクよりも、銀行の顧客資産管理システムが充実していないほうが筆者にとっては大きなリスクのように思えてならない。
もし銀行員の方で、個人のお客様に投資信託や外貨預金を販売された方がこのコラムを読まれていたとしたらご質問したい。
「販売された投資信託の今日の基準価格はいくらですか? 販売した外貨預金の為替レートはいくらですか?」そして「購入されたお客様の資産は目減りしていないですか?」と。
私はすべてのお客様の資産状況を把握しています、とお答えになる銀行員の方は何人いるでしょうか。
また、お客様の資産の評価が減価していた場合はどのように感じされるでしょうか。
証券会社にいた人なら、間違いなく「非常に申し訳ない」「出入り禁止になるかも・・・」
なんていろいろとネガティブな状況を思い浮かべるに違いない。
銀行員と証券マンは同じ事象が起こっていても、まったく異なる感じ方や対応の仕方をするのではないだろうか。
全国銀行協会が4月11日に発表した2006年3月末の貸出残高は前年比で2.2%増加している。デフレの時代には、個人の預金は総資産を増やすだけで、優良な貸出先もなく運用に四苦八苦だったはずだ。
そんな環境の中で、オフバランスで販売できる高利回りを期待できる投資信託は「渡りに船」の個人向け金融商品であったに違いない。
ところが、投資の内容が外貨建債券であったりすると世界的な金利上昇でかならずしも有利な運用ができるとは限らなくなってきたのである。
価格変動リスクをきっちりと顧客別に管理できる仕組みが構築されていない状況での銀行が投資信託や外貨商品の販売は時期早尚であったのではないだろうか。
餅は餅屋の任せろ!とは言わないが、企業の設備投資ニーズも高まってきて、融資残高も伸びてきているのであれば、銀行は銀行にふさわしいビジネスの原点に立ち返ったほうがいいのではないだろうか。
さもなくば、いままで低金利でないがしろにしてきた個人のお客様を向いたサービスを充実させるようなシステム投資を行い、今後の団塊の世代の退職に備えるべきである。
最後に、読者の中で、銀行で投資信託を購入したり外貨預金をされている方がいたら、一度電話でご自身の保有する金融商品の現時点での評価損益を聞いてみていただきたい。電話を取った方が即答する銀行があったら私のコラムは杞憂に終わるが、もしそうでないとしたら少し考えたほうがいいだろう。
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com
|