先日、別なメールマガジンにワークスアプリケーションのストックオプションに関連するリリースの事を書きました。その後、上場企業のIR担当部長さんと面談した際に「あれは一体何だ?」と聞かれました。これから話題になることが増えると思いますので再度取り上げてみます。
昨年12月に企業会計基準委員会より発表された「ストックオプション等に関する会計基準」に基づき、今月1日の会社法施行以降に発行されるストックオプション(従業員等に報酬として付与される新株予約権、以下SO)は、企業会計においては費用計上することとなります。ワークスは4月27日に株主総会で決議済みのストックオプションの発行を中止するとアナウンスしました。
施行前の駆け込み発行は倫理的にNOという判断をする一方で、今期は業績が不振であり同日付で公表済み予想を下方修正するという状況で施行後に費用計上を伴うSO発行は負担が重いので中止する、というものでした。
同社のリリースによれば発行中止の新株予約権は4,628個(4,628株)で見積もった費用は約2億円とのことなので、1個あたりの費用(価値)は4万3千円になります。オプション計算式として広く認知されているブラック・ショールズ式のソフトで試しに計算してみました。
この式でオプション価値を計算するのに必要な要素は以下の五つです(発行時点の株価・行使価格・行使期間・行使期間終了までの期間相当の金利・該当株式の予想ボラティリティ)。同社は昨年10月28日時点で発行条件を決定していましたので、その時点で、この式でのオプション価値計算に必要な条件を拾いますと、行使価格:148,515円、その時点の株価:120,000円、行使期間は10年、期間10年の長期金利は2%としました。
残る予想ボラティリティが不明ですが計算された結果が1個4万3千円なので、計算ソフトで逆算したボラティリティは約30%となりました(ブルームバーグで昨年10月時点のヒストリカル・ボラティリティを拾うと35%程度でした)。
1株12万円の株価の時に行使価格14万8千円のSOを付与された従業員としては、「4万3千円相当のSOか、現金1万円を選べ!」と言ったらかなりの人が現金を選びそうです。しかし会社はこれを4万3万円の人件費として計上しないとなりません。従来、新興企業はSOを多用してきましたが、新興企業ほど株価のボラティリティが高く、オプション価値が高くなります。
また新興企業ほど収益基盤が不安定でSOの費用が重く感じられるものと思います。これは大変!ということでSOの発行は相当減りそうです。ただし未公開企業の発行するSOは、行使価格が時価を上回っていれば価値ゼロとして費用計上はありません。それゆえ公開直前に数年分まとめて大量に付与、なんていう例が増えるかもしれません。
企業は公開後の従業員へのインセンティブをどうするのか再度考え直さないとならんでしょうが、投資家は公開前後の資本政策に要注意!と思います。また数年前に企業の意思決定ツールとしてリアル・オプション理論が話題になりましたが、実用が難しく最近あまり聞かなくなっています。しかし今回の費用化を契機に企業のオプションに対する理解が進み、再び活用を検討する企業が出てくるかもしれません。
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株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史
(CFA協会認定証券アナリスト) |