インターネット証券会社のブローカレッジ手数料のディスカウント競争が熾烈を極めてきたが、すでに極限まで手数料は下がったと言い切ってもいいだろう。
きっかけは5月に野村グループのジョインベスト証券が開業と同時に国内で最も安い手数料を発表した。その対応策として他のネット証券会社が出してきたのが、期間限定の更なる手数料引き下げキャンペーンや国内株式手数料ポイント20%バックキャンペーンなどである。
ネット証券が世に出現したときのことを振り返ると、その価値提供には非常に大きな驚きがあったはずだ。
今では当たり前になってしまっている「板情報」が見られることで、プロの投資家並のリアルタイムトレーディングを実感できた。
また、もっとも面倒だと感じてきた注文の条件変更や取消しが営業マンを介さずにできることが煩わしさを無くし個人投資家をパソコンの前に釘付けにした。
このようなブローカレッジ環境を実現したのは、インターネットのブロードバンドの普及があったからこそでITの進化には感謝しなければならない。
その結果として株式取引のコストで一番大きかった売買の委託手数料が10分の1以下にまで低下していくことが最大の顧客価値創造となり得たのである。
ところが個人投資家は手数料の安さや株価をリアルタイムで見られるといったことだけに価値を感じなくなってきているようである。
本日の日経金融新聞の一面にも記事があったが、ネット専業証券会社5社の新規口座数は伸びなやんでいる。1月にピークを打ち4月まで3ヶ月連続で減少傾向にあるらしい。
記事では株式相場の膠着感の強まりや各社の手数料の下げ動向を見極めたい個人投資家の姿勢を反映していると書いているが、本当にそのことだけが原因であろうか。
取扱商品や取引所の会員権などを比較してみると、大手の対面営業の証券会社ならすべてサービスされているメニューが歯抜け状態になっているネット証券会社が多い。
個人投資家にとって株式投資に必要な情報の中で最も重要な個別企業のファンダメンタルズを見るためのアナリストレポートがネット証券ではほとんど提供されていない。
ネット証券会社のただ単に便利で安いだけの価値提供で競争する時代はすでに終焉の時期を迎えようとしており、これからは提供する商品の品揃えや情報の質を選別する時代に入ろうとしているのでなないだろうか。
顧客にとって最高の価値を提供してくれるネット証券会社がどこであるのかを見極めるにはもう少し時間を要すると考えられるが、ネット証券会社の経営を考えた場合に最高のサービスを提供する会社が最高の株主価値を創造していることには繋がらない可能性が出てきたと言えよう。
ネット専業証券会社は「安い、便利」だけではない顧客価値を一刻も早く構築しなければ行く末は厳しいと言わざるをえないのではないだろうか。
一方で、個人投資家の皆さんは、顧客価値創造の向上が株主価値を下げることにもなりかねないネット証券会社を見極めるべき時期がやってきたことを念頭に置いておくべきであろう。
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com |