株式投資は手堅いものを選択する傾向を強めている。IPO投資家とて同じだ。ボラティリティの高さよりも、小幅でも下値硬直性が高いものが選ばれる傾向にある。
この観点から見て値保ちが良いのは小売業だ。今年第1四半期に上場した会社の公開3ヵ月後実績を業種別で見ると、こんな事が言える。小売業の会社は平均初値倍率が1.5倍。初値を基準とした1ヵ月後株価は1.1倍、3ヵ月後株価は1.02倍になっている。
小売業の初値倍率そのものは決して高くはない。今年公開した年初5社平均は1.97倍、5月の連休突入直前の5社平均は1.96倍だったので、2倍近い水準にあるのが多くのIPO投資家にとっての実感であると思えるからだ。連休が明けた後の直後5社平均では2.26倍にもなっていることから見ても、2倍は当然の水準であるとすら思える。
ただ、6月26日までの直近5社平均では1.3倍へと低落している。傾向的にこの水準は低下してきている。実は、初値倍率は過熱度指標程度の意味でしかない。この高さは、市場で株式を買う投資家にとっては一層の高値で売りつける機会を小さくする結果を生むに過ぎないからだ。
実際、1Q公開銘柄で初値倍率が最も高かったのはサービス業の3.3倍だったが、初値基準の1ヵ月後、3ヵ月後の各株価は3割近い下げになっている。上場前から保有している株主でなければ利益を確保できるチャンスは極めて小さい。
同じことは情報通信にも言える。初値倍率こそ2.3倍もあるが、1ヵ月後の乖離は1.09倍、3ヵ月後には1倍を割り込んでしまっている。この変化の幅の大きさを考えると、初値倍率の基準となっている公募価格の価格形成がまんざら悪くない事に気がつく。
初値倍率だけに目を奪われている限りは公募価格の設定が誤りではないかとも思えるが、時間が経てばこの参考価格を元に投資家が企業価値を算定している疑いが高まる。
この考えを敷衍すれば、公募価格比較での市場価格推移が銘柄選びの一つの参考になる。公募価格対比で1ヵ月後が1倍以上になっているのは情報通信と小売。小幅だが小売の方がパフォーマンスが高い。値保ちが良いのは小売業だと冒頭に述べた所以だ。
日系投資会社在籍 P.N.候鳥(わたりどり) |