新発10年物国債の利回りが1.7%を割り込み、利回りは3月中旬の水準で日銀がゼロ金利解除に向けて動き出した頃まで戻ってしまった。
単純に考えると長期金利の低下は、株式投資にとってみればフォローウィンドとなる。
筆者は先月からの個人投資家向けの講演会で長期金利低下は前提条件として考えづらいので、企業業績が向上する以外に株価が上昇する要因は存在しない、と言いつづけてきた。
業績のほうは、7月下旬から始まった3月決算企業の第1四半期の業績は前年同期比で経常利益が15%増を受けて、株式市場は7月中旬から8月中旬にかけての上昇相場を演出してきた。
そして株価のほうが頭打ちになってくるのを見透かしていたように国債が買われ始めたのである。一見すると、同一の投資家が株式を売って国債を買っているのではないかと思うほどである。
理屈の上では長期金利低下で株式への投資妙味は増すはずであるが、それが売られ始めたのはどうしたことであろうか。
ひとつには第1四半期の業績はそれなりに良かったが、通年で経常利益が増益になる確信が得られない、ということではないだろうか。
日経新聞に掲載されている日経225銘柄のPERから今期の利益成長を計算すると、前期基準:20.17倍、今期予想基準:19.57倍と1株当りの利益は前期から3%しか成長しないことになっている。
金融相場が終わって業績相場に移行してきたとは言え前期比3%の利益成長ではこの先まで買い進んでいくだけの材料にはなりえないのであろう。
しかしながら、株式投資を金利とのアービトラージで考える類の投資家にとっては、金利低下は株式に資金を投入するトリガーになる可能性は高い。
視点はイールドスプレッドの拡大である。
日経平均株価が17,500円をつけた4月上旬の株式益利回りは4.3%、長期国債の利回りは2%でその差は2.3%であった。
それが今日は株式益利回り5%、長期国債利回り1.7%でその差は3.3%まで広がってきたのである。
もし仮に第1四半期の経常利益の伸び率15%がそのまま通期の利益成長になるとするならば、今期の日経225銘柄のPERは17.5倍まで低下し、株式益利回りは5.7%まで上昇することになる。
おまけに長期金利の水準が1.7%程度で留まるのではあれば、スプレッドは一気に4%まで広がる。
とするならば、再び外国人投資家の猛烈な買いが入ることは間違いないのであるが、業績を見極めるまでにしばらく時間がかかるとの見方が株式市場を支配していることが先週来の出来高の低下と軟調な株価の動きを演出しているのであろう。
金利と業績。
ひとつの条件は変化したが、もうひとつのほうが動くにはしばらく時間がかかりそうである。
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com |