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編集長のジャストフィーリング 敵対的買収 〜王子の北越TOBを整理する〜

東京IPO編集長 西堀敬

 

7月上旬から始まった王子製紙の北越製紙買収にまつわる話題については、あえて触れてこなかった。

事の成り行きを見守っていたと言えば大袈裟だが、個人的には歴史のある日本の大企業がどのように意思決定をするのか非常に興味があった。

そして、9月4日に王子のTOBが正式に不成立となって、証券業界からもいろんな意見が出てくるようになった。

今回の買収劇を各種メディアは過去2ヶ月間報道を続けて来たわけだが、私なりに整理をしておきたい。

  1. 業界トップ企業が下位企業に仕掛けた買収
  2. 業界下位企業同士の合併は上位に食い込むための戦略としてよくある話であるが、通常、業界1位企業は絶対的に安泰な地位と言われている。その製紙業界1位の王子製紙が社会的な批判を浴びながらもTOBに踏み切った事に大企業の経営者にも将来に対する危機感が目覚めたという意味で大きな前進があったと評価できる。

  3. 野村證券が買収企業側のアドバイザーに就任
  4. 外資系のインベストメントバンクに美味しいところを全部持っていかれていた日本の大型M&Aのアドバイザリー業務であるが、野村証券がやっと重い腰を上げて全方位外交からこの分野の収益化に大きく舵を切ったことは時代の流れが大きく変わったことを物語る出来事であった。外資系企業の日本企業買収に使われる三角合併の手法も来年からは実現可能になり、今回の国内企業同士のM&A合戦はちょうど前哨戦であり、そこに野村證券が顔を出したことは、大型M&A時代の幕開けと言っていいだろう。

  5. 業界の互助会という日本企業独特の文化を確認
  6. 被買収企業の北越製紙に助け舟を出した三菱商事の思惑は見過ごすわけにはいかないが、それよりも日本製紙が約9%の北越製紙株式を取得したのには驚いた。日本製紙の中村社長は「連結売上規模で明確な差をつけられる事態は看過できない」と言っている。グローバルな製紙業界の動きの中で日本の製紙業界がどのように生き残るのかという議論はなく、日本という市場の中で戦い続けることしか知らないとするならば、正に「井の中の蛙、大海を知らず」になってしまう。助け合いならいいが、共倒れのリスクもありそうだ。

  7. 漁夫の利となるか三菱商事
  8. 製紙業界の中での互助会の仕組みや地元政財界を取り込んでの防衛に走った北越製紙であるが、王子製紙のTOB失敗で大きく利益を得る可能性があるのは日本最大のインベスターである三菱商事であると考えられる。原材料の供給から製品の流通までをも牛耳ることによって日本の製紙業界を押えてしまったのである。もし、北越のみならず日本の製紙業界に国際競争力がなくなったときにはその代り身は相当早いと考えておりたほうがいいだろう。北越の株主にとって三菱商事がホワイトナイトであったどうかの判断にはしばらく時間を要するだろうが、現段階ではっきりと言えることは、北越の経営陣と社員および関連事業者にとっては間違いなくホワイトナイトであったということだ。だが、その代償は必ず払わされることは間違いない。そのことを株主は承知しておかねばなるまい。

  9. 外国人投資家の反応
  10. 日本企業を買収するには被買収企業の関係当事者の合意を予め得ておかねば何事も前に進まないことを改めて強く感じたのではないだろうか。また保身に傾く経営者と日本の業界独特の動きが、グローバル企業の効率経営を阻害していると再認識したはずである。王子の北越株式TOBを阻止するとして北越の株式を大量取得した日本製紙の株価はその後見事に下降ラインをたどっている。この株価の動きが外国人の見方を如実に物語っているといえるのではないだろうか。

9月4日は日本における超大型敵対的買収案件の不成功が確定したが、一方では、独立系M&Aコンサル会社GCAの上場が承認されるという日本における新しいM&A時代の幕開けに繋がる日となり、非常に皮肉な巡りあわせとなってしまった。

欧米の巨大企業と日本の業界トップ企業の時価総額の差は歴然としている。本気で外国企業が日本企業買収に乗り出したら、業界の互助会で守りきれるものではないことを経営者は理解しておくべきである。

もし誰にも買収されたくないのであれば、経営者は買収される経済合理性が働かないほどに株価を高めておくこと以外に方法論はないだろう。

 

東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com

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