昨日、みすず監査法人の片山理事長が「社員・職員を三監査法人に移管することで基本合意した」と記者会見を行った。
昨年から共同監査制をとっている企業はさほど問題ではないかもしれないが、みすず単独で監査を行っている企業にとっては今年の夏以降は大きな問題となってくる。
上場企業は毎年150〜200社程度増えていくが、新聞報道にもあるように、会計士の絶対数は不足気味であることに加えて、監査の質はより高いものを求められるようになってきている。
おまけに新規上場のハードルが下がったために十分な利益を出していない企業が次から次へとIPOしており、監査法人にとっては十分な監査報酬も払ってもらえないにもかかわらず、その責任は重くなるという矛盾をはらんだ状況にあるといえる。
私の邪推ではあるが、みすず監査法人の若手会計士に中には監査法人での勤務に見切りをつける人も出てくるのではないだろうか。
十数年前に証券会社のスイス現地法人に勤務していた頃に監査に来ていた米国人の会計士が言っていたことを思い出した。「監査法人での仕事は将来事業会社で働くための職探しに過ぎない…会計士は長時間労働で労働条件が良くない…」なんてことを言っていたような記憶がある。
確かに監査先企業の社員には成功報酬のストックオプションがあったり、業績連動に賞与があったりして、年俸制の会計士には隣の芝は青く見えるに違いないだろう。
もし仮に私の邪推が当れば、相当数の会計士が監査法人から事業会社やコンサル会社に流出して、現在みすず監査法人と契約している企業の監査を引き受けられる監査法人のキャパシティはなくなるのではないだろうか。
監査法人といえども、ビジネスベースで契約先を選択せざるをえなくなるであろうから、十分な監査報酬を支払えないところは、次なる監査法人との契約もままならなくなるはずだ。
更に厳しい状況に追い込まれるのは、現在上場準備中の企業ではないだろうか。
上場申請には2期継続して同じ監査法人が監査証明を出す必要がある。2期継続とは何をもって継続していると考えるかについての見解はでていないが、たぶん監査に関与する監査法人の社員(パートナー)が同じであれば継続性は担保されるのではないかと推測する。
もし監査法人の都合でみすずから担当社員が移った監査法人に監査契約がうまく引き継がれなかった場合は自動的に2年継続監査の条件に触れることになり、上場時期は最低でも1年は延びることになる。
みすず監査法人の今回の決定は、多くの上場企業に影響を与えることは間違いないが、水面下で上場準備中のIPO予備軍にも少なからず影響を与えるだろう。と考えると、来年はIPO企業数が激減する可能性も出てきた。
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com |