(前回に続いて、いちごアセットマネジメント株式会社について)
米国カリフォルニア州出身のキャロン社長は幼少時から何回かの日本滞在経験を経たあと、94年に日本開発銀行の客員研究員として来日。日本における新興企業向けの株式市場の開設などをテーマとした研究に従事。当時は研究の道を進む意向だったものの、仕事にとっての重要な三つの要素、「学ぶ」、「教える」、「実践する」の最後の部分がない点が物足りず、証券業界に転進したとのこと。
以降、モルガンスタンレー証券などで順調にキャリアを重ねました。そうした中で日本企業のガバナンスの1つの特徴であった金融機関や取引先との株式持合と、その解消を通じた変化の流れも感じたようです。安定株主の消滅に合わせて、日本でも台頭してきた買収ファンドやアクティビストと言われる投資家の活動も目の当たりにして、日本社会に相応しい行動をとる投資家の姿を模索したようです。
また国内小型株市場の非効率性を見るにつけ、そこに大きな投資機会、ビジネスチャンスも感じたそうです。米国においては小型株、地方株専門の証券会社や調査会社が存在し、小さな上場会社でも調査レポートが作成され、証券会社のフォローも行われています。しかし日本においては今回の東京鋼鐵のように、安定した経営と強い収益基盤を持ちながらも、時価総額、業種、成長性、地域性などの要因でアナリストのカバーがなく、キャッシュも潤沢でファイナンスの可能性が少ないため証券会社のカバーもなく、引いては投資家からも評価されず、非常に割安に放置されたままの企業が存在しています。
こうした状況を踏まえて、いちごAMは、東証2部やJASDAQに上場し、既に事業基盤を確立している時価総額200億円以下の規模の企業で、特色あるエクセレントカンパニーでありながらアナリストのカバーもなく、PBRが1倍前後で推移するバリュー株への投資に特化する方針で活動を始めました。投資先の経営陣との対話を重ねる中で長期的に投資を行うことも基本的な方針としています。この分野でのNO.1を目指すのはもちろん、日本の小型株投資により、世界のあらゆる株式投資スタイルに中でも優れたパフォーマンスを達成することを目標としています。
同社は投資姿勢を示すものとして「モノを聞く株主」という表現を使っています。
「聞く」には経営陣の経営方針などを真摯に聞く、という点と、同時にこちらからも「訊く(尋ねる)」という姿勢も込めているそうです。社名の「いちご」は今回メディアで紹介されたように一期一会から来ています。インタビュー当日もスーツの襟に「一期一会」というバッジ(社章)を付けていたのが印象的でした。最後に1つ印象に残るコメントがありました。今回のように株主名簿を閲覧して一般株主に対して委任状勧誘を行うような行為は非常に手間とコストがかかり、運用パフォーマンスだけを考えると最善の手法ではないのでは?と尋ねました。それに対しては、「投資家、特にプロの投資家、機関投資家には市場の効率性を
高めること、市場の規律を高めること、個人株主を含む一般株主の利益を代表して行動する社会的責任がある。その為のコストは負担するのは当然である(=それをカバーする運用パフォーマンスを出す)」、ということでした。短期的な大量買い上げと売却によるサヤ取りや、価格修正条項付のファイナンスの引受で利益を上げる利己的姿勢の“プロ”が目に付く中で、非常に新鮮な印象が残りました。今週の総会の結果とその後の展開も気になりますが、日本の市場における「いちご」の成長と存在感の高まりにも期待します。
いちごAMウェブサイト http://www.ichigoasset.com/ja/index.html
コーヒーブレークのブログ書いています。 http://ameblo.jp/mplstwins/
株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史
(CFA協会認定証券アナリスト)
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