昨年の夏以降の相場展開は時価総額の大きな東証1部上場銘柄に売買が集中して、新興市場株、とりわけここ1年半くらいの間に上場したIPO銘柄は見るも無残な株価となってしまっている。
東証マザーズ指数が1,000ポイント割れともなると新興市場へのゲートウェイ的な存在の東京IPO.COMを運営する立場としてはこのまま放置しておくわけにもいかなくなってきた。
そのような憂いを心に抱きながら2月下旬から3月にかけて東名阪のIR会社説明会の場をお借りして個人投資家の皆さんにIPO株の動向についてお話をさせていただいた。
私の話を聞いていただいた個人投資家の皆さんの中には「少し元気になれました!」と言ってお帰りいただいた方もおられた。
話の内容は今月のブログにも書いた内容で目新しいものは無いはずだが、実際目の前で説得されるように話をされると妙に納得した気分になってしまうものである。
さて、大型株と新興市場株の株価の動きが2極化してきた時期は昨年の6月に遡らなければならない。
私がテレビ東京の番組に出演した6月上旬はまさに株式市場は陰の局であった。日本株は底値を付けたと感じたのは私だけではなくて市場関係者の多くの方々も同感であったはずである。
確かに6月14日に日経平均株価は底入れし今日を迎えている。ところが、新興市場は一見すると底入れしたかに見えたが、その後はダラダラと底なし沼のように沈み込んでいくばかりで立ち直りの兆しがまったく見えない。
その背景にはいったい何があるのだろうか?
ここのところ企業の業績発表を見ていると、期初の業績予想を実現できないIPO企業が少なくない。もし業績の下方修正リスクがあるとしたら、当然のことながらそのような「企業群」の株は買えないという市場の認識が株価下落の要因となっているに違いない。
数年前にある東証マザーズ上場企業の社長が下方修正を発表した直後に「まだ会社として十分な経験がないので精度の高い計画を立てるのは難しい」と言っていたことを思い出した。
このような発言を聞くと、新興市場に上場してくる企業の多くはできもしない業績予想を発表している、と考えたくなるが、それは無理からぬ事情があることも理解しておかねばならない。
なぜならば取引所は事業の成長性を上場審査の重要項目と捉えており、上場直後に売上・利益共に前期比で伸びることが上場の前提条件としているからである。
新規上場する企業は上場申請の書類の中で将来2期間の事業計画を提出しなかればならない。その中で「業績横ばいの数字」なんて仮に予想が不可能であったとしても絶対に書けないはずだ。
とは言え、上場の指導を行う主幹事証券会社は最低でも1年間程度は新規上場する企業の予算と実算のモニターを行っているはずである。 会社が公表する業績予想が実現可能かどうかを判断するのは、さほど難しいことではないはずだが実際はそこまで指導していないのが事実のようだ。
ここ数年間、大手企業が期初に発表する業績予想は超保守的で時間が過ぎていくに連れてボトムラインが上がってきている。
上場企業として投資家を欺かないためのテクニックを身に付けた上場経験の長い企業と上場直後で馬鹿正直にベストエフォートベースの数字を公表して自らを嘘つき者にしてしまっている企業の差が株価に反映していると言えるのではないだろうか。
IPOした企業の経営者にお願いしたいことは、上場直後から成長性を株価に反映させることを追い求めるのではなく、有言実行を常とする経営を行っていただきたいと言うことだ。
一度、嘘つき者のレッテルを貼られると、名誉挽回には相当の時間がかかる。
失った信用を取り戻すには、「やりたいこと」が「できること」であるのかをよく考えてから数字は公表すべきである。 そのための失敗をいま積み重ねていることを良く認識すべきではないだろうか。
東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com |