2007年3月期の決算発表も先週ヤマ場を越した。
終わった期はともかく今期2008年3月期の業績予想を先週金曜日までに決算発表した企業について日経新聞社が集計した。
対象1,434社の経常利益は3.0%の増益と報じられている。 過年度からの経常利益の推移を時系列で見ると以下のようになる。
2005年 |
⇒ |
2006年 |
+14.5%(実績) |
2006年 |
⇒ |
2007年 |
+10.7%(実績) |
2007年 |
⇒ |
2008年 |
+3.0%(予想) |
また経常利益の総額の内訳を製造業、非製造業で見ると、総額は32兆2208億円で、内訳は製造業21兆2549億円、非製造業10兆9658億円である。
ここで注意して見なければならないのは、内訳の大きなほうの製造業21兆2549億円の数字は為替の前提条件などを勘案すれば保守的であると言われているが、税制改革で今期から特殊要因があって経常利益を押し下げていることである。
特殊要因とは減価償却費が過年度よりも多いということである。
その理由は、企業が取得した固定資産は、取得価格の95%までしか損金(経費)に落とすことができなかった。その残りの5%については設備を使いつづける限りそのままの簿価でバランスシートに計上しておくしかなかったのである。ところが、その残り5%分も今回の税制改革で、5年にわたり均等に損金(経費)にすることが認められたのである。
つまり企業は今期から5%分の償却費を経費に計上する分だけ利益が減ることになる。
オールドエコノミー産業で古い設備を今も使っている製造業にとって、今回の減価償却のルール変更はある種の節税効果をもたらすことになるが、投資家からすれば利益を減らす要因となり、株価の形成に悪影響を及ぼすためあまり有り難くない話となる。
だが、ここでよく考えなければならないことは、「利益は減っても、それは帳簿上の話だけに留まり、キャッシュはむしろ増える」ということである。
簡単に解説すると
|
過年度 |
今年度 |
|
現金の増減 |
減価償却影響額 |
0 |
10 |
償却費増 |
0 |
税引き前利益 |
100 |
90 |
課税対象利益減 |
0 |
税金(税率50%) |
50 |
45 |
税金減少 |
+5 |
当期利益 |
50 |
45 |
利益減少 |
+5 |
つまり表(おもて)の決算数値にくらべてキャッシュフローは良くなるということだ。
投資家の企業価値評価の手法として万国共通のPERを用いると、この度の税制変更はPERを上昇させることになり日本株は欧米先進国に比べて割高とみなされかねない。
では、どうしたらいいのだろうか?
よく企業買収などで企業価値を測る手法として用いられるキャッシュフロー測定のEBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)=利払い前・税引き前・減価償却前・その他償却前利益 を使えば、減価償却費の増減に左右されないはずである。 この手法では、EDITDAの○○倍が企業価値ということになる。
税制変更の影響は大きな設備をもつ企業ほど大きく、電力、ガス、製紙、鉄鋼、造船、エレクトロニクスなどのモノ造り日本を代表する企業に集中している。
今回の税制改革がなければ2008年3月期の経常利益は二桁成長が十分可能だったはずであるとの市場関係者のコメントがあちこちで聞かれる。
でも、そんなタラ・レバを言っても仕方ない。
とするならば、企業価値を測る指標を変えて再度じっくりと吟味してみる必要があるのではないだろうか。
EBITDAとは限らないが、きっとどこかのアナリストやストラテジストはPER以外の指標を持ち出して「日本株は割安だ!」と言い出すのも時間の問題ではないだろうか。